2.ホウ・シャオシェン監督としては珍しい「現代」を舞台にした作品。
彼の作品といえば、「過去」や「想い出」を映像化したものがほとんである。
「現代を舞台にした作品を撮るのは苦手」と、ホウ監督自身もインタビューの中で語っている。
実際、彼の作品の中で広く一般的に評価を受けている作品は、「過去のある時代」が舞台となったものばかりだ。
逆に現代を扱った『珈琲時光』などは、高い評価を受けているとは言い難い。
(もっとも、私が一番好きなホウ監督の作品は『珈琲時光』だが。)
「現代の東京」を描いた作品が『珈琲時光』ならば、「現代の台湾(台北)」を描いたのが本作だ。
私としては期待しないわけがない。
本作の撮影担当は『夏至』のリー・ピンビン。
クリストファー・ドイルの映像も個性的で大好きだが、リー・ピンビンの映像もそれに勝るとも劣らないくらい素晴らしい。
リー・ピンビンの撮る映像はドイルと比べれば控えめな印象はあるものの、透明感があって瑞々しさに溢れており、とても美しい。
“熱帯の緑鮮やかな台湾をリー・ピンビンが撮っている”というだけで観る価値のある作品である。
そして音楽。
メニュー画面にも流れている、この作品の「テーマ曲」がある。
その他、車で郊外へ飛ばすシーンや、バイクで山をぐんぐん登るシーンなどで使われている。
テクノ調の曲なのだが、本作を見終えた後もかなり耳に残っていた。
元々、テクノ調な曲が好きってのもあるけど、テーマ曲に関してもかなり気に入った。
映像と音楽が自分の感性とぴったり合っていて、観ていてとても心地良かった。
途中、「置時計」がかなり長い時間をかけて撮られているシーンが出てくる。
ストーリーとは全く関係のないワンシーンなのだが、とても透明感があって美しかった。
それも印象的だ。
しかし、ストーリーはなんてことはない。
だらだらと台湾のチンピラの生活が描かれているだけだ。
でもそんなことはどうだっていい。
ホウ監督の映画でストーリーを追ったっていいことはない。
台北の夜景、熱帯の緑鮮やかな風景、美しい置時計に、美しい女性歌手、そして強引に挿入されるテクノ音楽。
そしてそれらとコラボするリー・ピンビンの創り出す映像世界。
そういったものを楽しむべき作品である。