1.「トパーズ」は、村上龍の優れた連作小説である。そして映画は村上龍が監督した唯一魅せる作品でもある。「トパーズ」は、SM嬢やホテトル嬢など、僕らから見たらどん底と思える仕事に従事している少女達の語りを通して、人が人として在るべきポジティブな姿が垣間見える不思議な味わいのある小説だ。悲惨な待遇を受け入れ、時に恐怖と隣り合わせにありながら、彼女達の語りは、単純に絶望しているとは思えない、何か一筋の光を思わせる、まさに宝石の如きキラキラとした輝きをみせるのである。彼女たちのアブノーマルな性質の中に見る実にノーマルな人間的輝きは、世界から沈下した彼女たちが見上げるアッパーサイドの僕たちの世界への視線であり、それはいつの間にか彼女たちと僕たちの関係性を超えて、生きていくことそのものの本質的な視線を捉えていく。逆に僕たちこそがこの世界に希望を持つことが叶わない存在としてあるのではないか。この作品は僕らにそう問いかけているように感じる。その捩れた問いが僕らに奇妙だが深い感慨をもたらす、実に不思議な感覚の小説なのである。さて映画はどうかといえば、さすがに原作者が映画化しただけあって、そのモチーフはまた別の形をもって作品化されていると感じた。小説の特徴である少女たちの「語り」は確かに映画で表現できえるものではないが、語りが沈黙へと変化してもそのモチーフは十分に理解できたように思う。小説が「語り」を手段としたのに対し、映画は彼女たちと僕たちの「視線」そのものを描くことによって、この作品のモチーフを再構築してみせる。その視線はとても静かである。それがこの映画を「魅せる」作品と感じさせる所以なのだろう。