32.長い長い旅の果て、極限まで憔悴した主人公たちの意識が乗り移ったかのように、観ているこちら側も確実に疲弊していることに気付く。
もちろん映画が長過ぎて疲れたということではない。これほどまでに深遠な物語を、これほどまでに完璧に映し出した映画世界を体感して、“疲れ”を感じないわけがない。
そう断言出来るくらい、この映画の完成度は物凄く、あらゆる否定を寄せ付けない絶対的な存在感を誇っている。
劇場公開以来2度目の鑑賞。劇場公開版でも充分にこの作品の凄さは感じていたけれど、今回初めて“スペシャル・エクステンデッド・エディション”を観て、映像構成から人間描写までこの映画世界のあらゆる緻密に裏打ちされた奥行きの広大さに驚嘆した。
主人公はもとより、彼を支える仲間たちの一人一人、そこに集う人物の一人一人、そして対峙する“悪”の存在の一人一人に至るまできめ細かい描写がきちんとされ、その一つ一つのドラマ性がこの深遠な物語を象っている。
そういうことを映画という表現の中で、余すことなく創造しきったピーター・ジャクソン監督をはじめとする製作陣には、ただただ敬服するしかない。
一つの指輪をめぐる冒険の果ての、世界の平穏と、主人公の喪失感。
ファンタジーに関わらず、世界中の数多のストーリーが、この"行きて帰りし物語”をベースにしているのだろうが、この映画の絶対的な存在感は、この先時を経ても決して揺るぐことはないだろう。
ただし、個人的にはこの物語に唯一対抗し得る作品があると思う。
「風の谷のナウシカ」の原作漫画である。
もちろんこれも、宮崎駿がJ・R・R・トールキンの「指輪物語」に影響を受けていることは明らかだ。今回、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを見直してみて、「風の谷のナウシカ」が類似する要素が数多いことに気付いた。
「風の谷のナウシカ」の原作漫画の大ファンにとっては、その実写映画化は禁断の夢だ。
ただもし、その禁断が破られるのならば、それを託せるのはピーター・ジャクソンをおいて他にいない。