1.身分・性差に囚われない私的な舞台として登場する、二階屋根に外接した見晴らしの良いもの干し用広縁が良い。鉢植えの美しい菊が並ぶその空間は、お嘉津(京マチ子)と友七(鶴田浩二)の接点となり、花々や刻々と変化する夕焼け空の色、二番星・三番星の明かりがアグファカラーの郷愁を帯びた色調で豊かに彩られる。そして何といっても映画の白眉といえるのは、箱根の写真を契機に広がるお嘉津の夢の場面である。奇跡的というべき金色の夕焼け雲の下、裾野を並び歩く京マチ子と鶴田浩二の小さなシルエット。その叙情的なロングショットと伊福部メロディの絶妙な融合具合は両者の数あるコンビ作の中でも随一と思われる。