2.ジャック・タチが娘に捧げた遺稿を「ベルヴィル・ランデブー」のシルヴァン・ショメがアニメ化。 「ベルヴィル」の強烈な個性は影を潜め、タチの思いを形にすることに神経が注がれているよう。 台詞少なく、僅かに呟かれる言葉も真っ当な英語や仏語ではなく、おのずと画に集中する。 美しい背景画はソフトを使ってのものだろうけれどペンと水彩の微細なタッチで、CGを加工した乗り物ともども作画と違和感なくなじみ、50年前の失われた時代がレトロに魅せる。 破れた古靴が赤い靴になり白いハイヒールになるように、少女は手品師に磨かれていくのだが、ただ一枚のポスターを懐に巡業する手品師が(しばしばピンハネの憂き目に会いながら)アリスの望みを叶えるのは、父性愛からであると仄めかす一枚の写真。 ホテルに同宿する芸人たちも時代を映す存在、一杯のシチューで救われる命もある。 旅立つに及んでパートナーの白兎を野に放つのは「仕立て屋の恋」を思わせるが、その新たな世界の広がり。 繊細な情緒に彩られながら切なさより安堵を覚え、肩の荷を降ろした手品師のいた世界は見終わると同時に淡く薄れていくのだが、消えることはない。