1.“性行為”に対しての葛藤。それは人間として、いや生物として、誰しもが通る通過儀礼。
勿論それは、身体障害者にとっても同様なことなのだけれど、臆病な社会は、そういうことからついつい目を背けがちだ。
この映画は、「障害者と性」という、浅はかな固定観念を持っていては踏み込みづらく、表現しづらい「題材」に対して、真摯に向き合い、ドラマとユーモアとエロティシズムを絶妙なバランス感覚で表現してみせた“傑作”と言えると思う。
この映画が素晴らしいところは、身体障害者である主人公の境遇に対して、必要以上に“同情”を誘っていないことだ。
主人公のマークは、幼少時からポリオによって全身麻痺となってしまった障害者である。呼吸補助のため、一日の大半を“鉄の肺”と呼ばれる呼吸器の中で過ごさなければならない。
けれど、彼の生き様には決して“悲しみ”が表れていない。自分の境遇を受け入れ、自立し、常に自分の人生を自分自身で歩もうとしている。
そんな彼の人生観が、そもそも勇気に溢れていて、観客は映画の冒頭から主人公の魅力に引き込まれる。
主人公の魅力が序盤からしっかり描かれるからこそ、この難しい「題材」の映画は、ある意味とても普遍的な「童貞喪失映画」に仕上がっていて、とても眩く、とても楽しい。
主人公の身体的特徴を度外視して、特に男の観客は、彼の“童貞喪失”の顛末に対して、己の事のように一喜一憂するだろう。
殆ど顔の動きのみの演技で主人公マークを演じきり、彼の人間的な魅力と、その人生の喜びと悲しみを余すこと無く表現してみせたジョン・ホークスの演技は素晴らしかった。
そして、こういうセンシティブな映画だからこそ、敢えてこう特筆したい。
“ヘレン・ハントのおっぱいが美しい”と。
主人公の相手役となるセックス・セラピストを演じたヘレン・ハントもまた素晴らしかった。
撮影当時49歳らしいが、このアカデミー賞女優の堂々たる脱ぎっぷりと、年齢を重ねても変わらない彼女独特の愛らしさがあったからこそ、この映画は成功していると強く思う。
勇気と慈愛、人間の営みにまつわる輝きに溢れた幸福な映画だ。
BS(WOWOW)放送だったからか必要以上に“ぼかし”が大きかったことは、演者たちの心意気を妨害しているようで、とても残念だったけれど。