1.こんなにも笑えないブラックコメディは初めてかもしれない。
「今」この瞬間の世界の実態を詰め込んだような強烈な社会風刺と、世界の終末。
登場人物たちと、彼らが織りなす社会の滑稽さが極まるほどに、“笑う”余裕などなくなり、胸糞悪さを超えて、もはや恐怖を感じてくる。
それは即ち、この映画の風刺が、決して過度にデフォルメされた描写ではないことに他ならない。
世界の危機よりも自身の保身を案じる米国大統領、タレントのスキャンダルに興じ科学者の訴えを無下にする報道番組、世界の決断をも牛耳る巨大IT企業、そして、自らで考え判断することを放棄してしまっているすべての大衆……。
それはまさしく、可笑しさと、愚かさと、悍ましさが共存する、この「地球」と「人間」の姿そのものだった。
ハリウッドのトップ・オブ・トップのオールスターキャストが、この壮大な風刺映画を強烈に彩っている。
主演のレオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンスをはじめとして、そうそうたる面々が、馬鹿な人間像を嬉々として演じきっている。
メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、マーク・ライランスら押しも押されもせぬ名優たちが揃いも揃って人間の愚の骨頂を表現するさまは、この映画の品質と娯楽性を高めると同時に、決して看過できない危機感を如実に創出していたと思う。(惜しげもなく全裸シーンを披露する72歳の大女優には脱帽!)
Netflix配信映画として全世界同時公開された今作は、あらゆる意味でこの「時代」に相応しい作品だった。
不都合な真実、面倒な現実から目を反らして、どこかの誰かの思惑に取り込まれていることを、無意識レベルで甘受してしまっているこの世界。
まるで藤子・F・不二雄のSF短編漫画のような手軽さと、それと相反する多層的な面白さと辛辣さが満ちていた。
タイトルバックで映し出されるジェニファー・ローレンスの嘔吐カットで表されている通り、時に吐き気をもよおすほどの醜悪さも感じるブラックコメディだったが、この映画の在り方は圧倒的に正しい。
これが地球、最高で最悪。