7.都会からある山村に取材にやってきた主人公の男。ひたすらあるおばあさんの死を待つのみ。
しかし何も起こらない。
都会からやってきた男と村人、大人と子ども、男と女、姿が見えない声だけの登場人物・・・。
なかなか噛み合わない会話が延々と続く。しかし、何とも言えない可笑しさや味わいがある。
主人公の男にとっては居心地がよくないのであろうが、見る者にとっては不思議な居心地の良さがある。
音楽も全く使われていませんが、意識的に挿入されている鳥のさえずりや家畜の鳴き声、風の音が耳に心地いい。
都会の人間から見れば不便も多いであろう、村に暮らす女は「この村には電話なんて必要ないのさ」と言う。
一方で便利なはずの携帯電話を持つ都会からやってきた主人公の男が携帯に振り回されている様は何とも滑稽に映る。
仕事でプレッシャーをかけられている男と風が吹くままに日々を生きる村人の対比はコミカルでもある。
ラストで黄金色に輝く麦畑を行く医者の男が語る死生観と、その美しい風景が印象的。
「天国は美しい所だと言うが、あの世から戻った者がいないのにどうして分かる?響きがいい約束より目の前のぶどう酒の方が美しい。」
返す言葉もありません。これぞ「風が吹くまま」ということか。簡単なようで今を生きる人間にとって、何と難しいことだろう。