1.舞台の幕が上がりこの映画は始まる。主人公は旅芸人一座の女優。ルノワールの映画に主役はいないと言われるが、この作品の場合はまぎれもなく主役がいる。アンナ・マニャーニの強烈な存在感がそう感じさせているのかもしれない。上流階級の世界に、その世界の枠にはまらない異国の女がひとり入ることで無様な醜態を見せる貴族たち。国民のためと称した欲のために築かれてきたルールの崩壊。まるで『ゲームの規則』を別の視点からとらえた映画だ。女の元を去り軍隊に入り帰ってきた男が、敵は悪い奴等じゃなかったと言う。むしろその思想に同調しそこで暮らすと言う。『ゲームの規則』の「人にはそれぞれ言い分がある」という救いの無いセリフの答えのひとつを提示しているように感じる。劇中劇という手法とマニャーニの最期の独白に「映画」と「役者」に対しオマージュをささげた作品とも感じた。全く存在意義のなかった欲の象徴の「黄金の馬車」が最期には価値を見出すというくだりといい、この映画は非情に多面的な側面を持っている。これもまた傑作。