6.1969年と言う年は、ポピュラー音楽界のみならず、世相的にも不安定な年であった。
ポピュラー音楽界のみに限って話を進めてみると、1月に行われたビートルズの録音セッションは、メンバーの息が全く合わず大失敗に終る。その一部始終を記録した映画「レット・イット・ビー」は、最後のライブ演奏のみがビートルズらしさをかもしていたとは言え、栄華を誇った「ビートルズ帝国」は、分裂必至であった。
そのビートルズに荒らされたアメリカのポピュラー音楽界は、「ビートルズもどき」のバンドや歌手であふれかえり、あと一歩抜けだせない状況であったが、かのエルビス・プレスリーが、映画出演とそのサウンドトラックのために歌うのみだった芸能活動を、ライブに移すことに成功する。エルビスにあこがれたビートルズが没落し、ビートルズに影響を与えたエルビスが復活したのは、真に興味深い事柄だと言わざるを得ない。
そのさなかに行われた「ウッドストック・フェスティバル」は、当時のポピュラー音楽の、一大見本市の様相を呈している。映画に登場するアーティストは、それぞれにインパクトがあるが、リッチー・ヘブンス、サンタナ、スライ&ファミリー・ストーンの衝撃度は群を抜いていると思う。
観客の反応も見ていて面白い。40万(たぶんこの数以上はいるだろう)もの人々が、「ベセルと言う町で、何か面白いことをやっている」と言うだけの理由で、はるばるやって来たのである。ステージに置かれたカメラでとらえられた、人、人、人。「何だこれは」と思わざるを得ない。その人々の間で回し飲みされる酒、タバコ、マリファナ、ドラッグ・・・。不健康極まりないのだが、当時の社会状況、特にベトナム戦争と言う、いつ終るとも知れない戦争へ介入するアメリカと言う国に対する庶民の反応は、「やってらんねえや」と言う部分が大きかっただろうから、そう言うものに頼って現実逃避したかったのも仕方がなかったと思う。
この一大イベントが開催されて、やがて40年となる。ポピュラー音楽も様変わりしていて、ヒップホップとラップ、パンクが主流だが、内容たるや仲間内の愚痴にしか聞こえないのは、自分が年をとってしまったためだろうか。もう一度、外へ向かって熱く主張する
音楽を聞きたいと願う昨今である。