1.何の先入観も持たずにこの作品を観始めてしばらくし、ひどい違和感に気付く。何だろう、以前同じ感覚を覚えたことがある…、そうだこの感覚、アゴタ・クリストフの小説「悪童日記」を読んだ時の感じと酷似している。つまり一切の感情描写がないのだ。一人称での語り口切り口でありながら、ひどく客観的。まるで他人事のよう。何というか、村上春樹を重症にした感じだ。強烈な疎外感と共に置き去りにされたような、それでいて観る者にも分からないように巧みに心の奥底に何かどろどろしたものを残して行く。描写がないからといって、感情がないのではない。画面からは強烈な獣性と暴力を感じる。随分経って、この監督のインタビュー記事を読んだ。それは別の作品に関するものだったが、とても気になる言葉があった。「映画はポエティックでありながらも人間の獣性がみなぎっているものでありたい」。そうこの言葉、まさにこの作品にぴったりだ。