1.「俺の運は尽きたのか?」自問自答を繰り返しながら、占い師にまで頼るようになった中年の麻薬密売人が、仲間と仕事と愛する女の全てを失おうとする数日間を淡々とシビアに描いたポール・シュレイダーの最高傑作。人生の大半を無為に過ごし、裏社会と手を切りたいと願いながらもそこにしか居場所を見つけられない男は、過去を愛することも打ち捨てることもできず、存在することへの意義を何ひとつ見出せずにいる。別れた妻の留守番電話のメッセージを、ラジカセを抱えて何度も何度も繰り返し聞き続けるデフォーの背中がいい。38歳、人生をやり直せるデッドラインを三歩踏み越えた男の嗚咽が、静かに、だが例えようのない迫力で美しい映像の下から漏れ伝わって来る。浮き沈みの激しいポール・シュレイダー組だが、この作品では全員があ・うんの呼吸でここでしか描き出せない空気を伝える。それぞれが完璧に居るべき場所を見つけている、ファミリーならではの結束の固さが独特の雰囲気を漂わせることに成功した。地味ながら珠玉の傑作と言って良い。何度観ても、珍しいくらい飽きの来ない作品でもある。