7.《ネタバレ》 新撰組を描いた加藤泰監督の映画だが、その歴史を華々しくカッコよく描くものではなく、屯所のみを舞台に新撰組の暗部や非人間性、非情さといったものを描いている。これまでも新撰組ものは何本か見ていて、そのメンバーの確執や非情さにも触れられている作品もあったのだけど、いざそこをメインに描かれると本当に新撰組という組織がただの非道な集団にしか見えず、多くの作品で描かれてきた英雄然とした新撰組のイメージは打ち砕かれそうになる(イメージとしては大島渚監督の「御法度」が近いかなと思うのだが、やはり少し違うか。)のだが、同時にここまで新撰組の闇の部分を徹底して描いた作品も初めて見た感じで、興味深くて面白かった。その非道さを田舎から出てきた架空の新人隊士である主人公 江波(大川橋蔵)という第三者の目を通して描かれている分、より一層その非道さが際立っていてリアルで見ごたえのあるものになっているし、最初は言われるがまま怯えながら仲間の隊士の切腹の介錯をやっていた江波が三度目には自分からその役を買って出るあたりは江波の人間性の崩壊もちゃんと描かれていて、そういうところにもリアリティを感じさせるあたりは想像はつくものの、やはりドラマとしてよく出来ている。と、ここまではじゅうぶん傑作の域なのだが、江波の正体が判明するクライマックスがなんか唐突で、せめてそれまでに伏線が欲しかった。(一応、沖田(河原崎長一郎)が芹沢鴨暗殺について江波に語るシーンが伏線といえばそうなのだが。)別にこういうふうでなく普通に江波が規律違反を犯して粛清されるという結末のほうがこの映画にとっては良かった気がしてこのラストはなんかもったいなく感じたのがけっこう残念で、ここだけが不満。でも、見終わって満足できる時代劇映画だったのは間違いない。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 7点(2023-08-27 23:49:35) |
《改行表示》6.《ネタバレ》 田舎から上京した柔弱な郷士青年・江波三郎が、新選組にあこがれて入隊するも、苛烈な規律で隊士を統率し、違反者は容赦なく殺戮するという恐怖の支配する閉塞的組織の中で徐々に人間性を失っていく様子を描く物語。と、視聴中思って疑わなかった。血を見ただけで卒倒していた江波が自ら切腹の介錯を申し出るようになり、又女中さととの恋愛も悲恋に終り、悲劇を盛り上げるものと信じていた。しかし最後に思わぬどんでん返しがあった。江波は近藤派に殺された、新選組初代隊長・芹沢鴨の甥で、復讐を誓って新撰組にもぐりこんだのだ。しかも坂本龍馬の海援隊の間諜でもあった。こうなると話が違ってくる。現実主義的手法で殺戮を繰り返す侍達の人間性を冷徹に描く筈が、単なる復讐譚に堕してしまうのだ。物語の軸がぶれており、失望感がぬぐえきれない。 新撰組の鉄の掟に辟易しながらも、心情的に近藤から離れられない沖田総司の葛藤の描写も全くの無駄に終る。沖田は江波のまだ汚れていない純粋な精神を見込んで新撰組に入れたのだ。だから江波の変化を意外に思うし、新選組の暗黒史である芹沢鴨暗殺の秘密も洩らす。その辺りの両者の微妙な心情変化もよく描けていた。結局のところ、江波の正体が間諜で近藤を狙う刺客であるという設定が全てを台無しにした。近藤を狙う機会はいくらもあったのに、何もしなかったという矛盾もある。舞台のほとんどが新撰組の屯所の中だけなのも不満だ。不逞浪人を取り締まる外でこそ新撰組の面目躍如があるからだ。途中までは非常に良いのに最後でしくじった作品である。白塗りのない大川橋蔵が見れる貴重な作品だが、興行面では失敗だったとのこと。 【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-12-13 01:50:01) |
5.新撰組をかっこよく描いた司馬遼太郎「燃えよ剣」にも初代局長、芹沢鴨と後の主要メンバーとなる試衛館出身者たち(近藤、土方、沖田、等々)の確執は描かれるが、この作品ではそういった局内の確執やそこから派生する粛清がメインに描かれる。所謂、新撰組の内ゲバもの。その非情さは知識として知ってはいても、粛清される側の視点であらためて描かれるとその非情さはさらに際立つなと。むしろ非道。架空の人物を主人公にフィクションを織り交ぜながらそのリアルな非道ぶりを炙り出してゆく。そんな中で純真無垢な存在の藤純子が光る。リアリズムに徹した暗く淡々としたドラマの中で映画の華が一服の清涼剤となる。そしてラストの大袈裟な悲劇の演出に映画の醍醐味を見る。 【R&A】さん [DVD(邦画)] 7点(2011-09-15 14:45:22) |
《改行表示》4.《ネタバレ》 20年以上前にテレビで見て強烈な印象を受けた映画。 DVDで見直しました。加藤泰という監督さんもよく知らないし、 この映画の知名度も高くありませんがやはり傑作です。 最初から最後まで中だるみ無し。 江波とさととのラブシーンは名シーンだと思います。 正直大川橋蔵はあまりインパクトはないが、 河原崎長一郎の沖田総司、 西村晃の土方歳三ははまっている。 なにより藤純子が可憐!! ラストシーンの悲哀は鮮烈です。 ぜひ多くの人に見て欲しい作品です。 【仏向】さん [ビデオ(邦画)] 10点(2008-05-18 16:15:09) |
3.事実はたったひとつであるはずなのに、時の移ろいや観点により多種多様な様を見せるのが歴史というものである。その中でも“新撰組”という事実は、実に魅力的でミステリアスであるが故に、非常に多面的で真の姿が見えにくいものなのだと思う。だからこそ、長きに渡ってあらゆる媒体によって物語化され続けているのだろう。そして数多くの作品が、その存在をある種“英雄視”している中にあってこの映画の存在は、とても衝撃的であった。“人斬集団”などという歴史的事実は各場面で伝え聞くところではあるが、その環境に生きる当の人間たちの心の闇をこれほどまでに徹底的に描ききったものはあまり無いのではないか。“残酷”といえば確かにそうだが、それは“彼ら”の歴史の中に当然あるべきリアリティだと思う。 【鉄腕麗人】さん [DVD(邦画)] 8点(2005-02-02 02:42:15) |
2.この作品も含め、昔の時代劇・任侠ものの邦画ってタイトルがグロテスクでおどろおどろしいのが多いですよね。僕はてっきり「世界残酷物語」がヒットしたからこういうタイトルになったのかと思っていたのですが、その前には大島渚の「青春残酷物語」なんてのもありますねーっと、閑話休題。僕は幕末ものは司馬遼太郎の「竜馬が行く」と小山ゆうのマンガ「おーい、竜馬!」くらいしか知らなかったのですが、確かに新撰組ファンにはショックかも(あと西村晃版水戸黄門ファンにも)。んでもこういう、「システムの中で人間性が壊されていく」というのは別に幕末や武士社会でなくても、旧日本軍(加藤泰が軍隊に入ってたかどうか知らないけれど、知り合いやスタッフ・キャストの中には絶対軍隊経験者はいたはず)やナチスドイツ、スターリン全盛のソ連、あるいは浅間山荘事件の連合赤軍などなど、いろんな所であったのでしょう。現代だってここまでショッッキングでないにせよ、小規模な「新撰組」は学校や会社などに存在するのでは?と思ってしまう。そういう意味では普遍性を持った作品。それほど「残酷(グロテスク)」な作品ではないので(ホラー・スプラッターが苦手な僕でもちゃんと鑑賞できたので)観てみて下さいませませ。 【ぐるぐる】さん 8点(2004-11-29 16:08:46) |
1.揺るがない筈の史実が、解釈によって全く意味を変えてしまう。歴史ものの面白さはそこにあります。従来は悪役だった新選組のイメージは、司馬遼太郎の小説「燃えよ剣」や、大河ドラマ「新選組!」などの影響により、ずいぶん好意的になっているのではないでしょうか。そこにこの『幕末残酷物語』です。欲と野望の塊である新選組には、ぎらぎらした悪の魅力が弾けており、180度かえった「新しい」視点を与えてくれます。白黒映像によって猟奇性が増す一方で、芹沢鴨襲撃の俯瞰図(上から見たショット)など、美しい構図のシーンも多く、監督の非凡なセンスが伺える力作になっています。もっとも、物語の後半の展開が、プロットの根幹を揺るがしかねないなど、危うさも同居しており、問題がないわけではありません。私は長所の方がずっと勝っていると思いますが、引っかかってしまう人がいても不思議ではなく、評価を大きく分けるポイントになりそうです。 【円盤人】さん 8点(2004-11-25 21:10:25) |