4.大日本帝国陸軍時代に実在したスパイ養成機関出身の諜報員たちの姿を描いたシリーズ第三弾。
主人公椎名次郎が、戦禍に向けて混沌が加速する上海の地で、危険な諜報任務を繰り広げる。
一作目、二作目と、諜報員としての才覚と経験を高めてきた椎名次郎が、ついに本格的なスパイ活動を展開していく様は、先ず単純に娯楽性が高い。
「007」とまではいかないが、“M”的存在の草薙中佐から秘密道具的なガジェットも提供され、窮地に陥った主人公がその秘密道具を駆使して危機を回避する描写は、「地味」ではあるが、なかなか楽しい。
そして、やはり主演俳優市川雷蔵の存在感が光る。
シリーズ三作目にして椎名次郎像もすっかり板についた様子で、常に淡々と立ち回りつつ、己の職務と宿命に全うする様は哀愁にあふれている。
今作では、敵地に潜入するために地元中国人に扮して関所を通り抜けるシーンがあるが、その際に見せる聾唖ぶりが巧みだった。
時は大戦前、椎名次郎をはじめとする諜報部員たちは、国際的対立を何とか水面下で収束させるために命をかける。
今作でもまた幾つもの屍が主人公の前に横たわる。しかし、その犠牲も虚しく時代は世界大戦への突き進んでいく。
スパイ椎名次郎の苦闘は続く。