1.《ネタバレ》 「アヴァン」と併せてみると、シャネルの人生・生き様がより理解できる。本作はココ・シャネルの歴史を描き、「アヴァン」はシャネルとして成功するまでの内面が描かれている。「アヴァン」が“陰のシャネル”とすれば、本作は“陽のシャネル”といえるかもしれない。数多くの苦労や失敗は描かれているものの、基本的にはいずれも好意的に解釈されており、美化されているように思われた。内容面については同じことを描いているが、同じ人間を描いたとは思えないほど、この2作の内容は異なっているようにも感じられる。
しかし、波乱に満ちた一人の人生を2時間程度で描き切ることはできないのも事実。どちらもが本当のシャネルでもあり、どちらもが本当のシャネルではないのかもしれない。「アヴァン」はそれほど面白いとは思わなかったが、個人的には「アヴァン」の方が好みだったようだ。映画としての質は「アヴァン」の方が数段優れている(もっとも本作はテレビ用として製作されたようなので比べようもないが)。「アヴァン」を観なければ、本作をもうちょっと高く評価したかもしれない。
ただ、ココ・シャネルという生き方を理解しやすいのは文句なく本作の方だ。ココ・シャネルという人間を全く知らない人にはこちらを薦めて、ココ・シャネルの生き様をよく分かっている人には「アヴァン」を薦めたい。
ココ・シャネルという人物の歴史を知るには、本作の方が適しているが、その描き方はどこか表層的だ。バルザンやカペルとの愛情、親友やマルコムが演じた男との友情といった人間関係に深みがない。カペルとの関係は「アヴァン」よりも時間が割かれており、よりよく理解できるが、「結婚する」「別れる」といった二面でしか捉えられていないので、やはり「アヴァン」の方が深いといえる。突然、復縁を申し出る辺りも“映画の流れ”の上でスムーズとは思えない。事実通りに継ぎ接ぎをしていっているようなので、その辺りに歪みが生じている部分があるようにも思える。
マクレーンは文句のない迫力・存在感を発揮している。カペルとともに作り上げた“シャネル”というブランド及び服飾に対する情熱、自分自身に対する自信が感じられる。しかし、若き日のシャネルを演じた女優はオドレイほど深みのある演技をみせることはできていない。オドレイやマクレーンと比較さえしなければ、文句のない演技なのだが、相手が悪すぎたようだ。