1.《ネタバレ》 小鳥のさえずり、葉が擦れる風の音、虫の鳴き声が外から聞こえ、
調理場には野菜が切られ、肉が焼かれ、鍋のスープが沸き立つ、自然と人工の音のアンサンブル。
全編にわたって長めのワンショットと少ない台詞によって調和が貫かれ、細やかな所作に適度な距離と緊張感が伝わる。
なぜ料理を作るのか?という問いかけ。
20年間、公私ともにパートナーだった美食家ドダンと女性料理人ウージェニー。
やがて結婚するも彼女が病で先立たれ、喪失感に打ちひしがれた彼が如何にして料理への情熱を取り戻していったか。
そこには哲学があり、愛情があり、物語がある。
調理場を滑らかに捉える、カメラの360度パンから回想シーンに移行していく。
ワンカットで時空を超越させるアンゲロプロスの演出を彷彿とさせる。
生前のウージェニーがドダンに問う。
「私はあなたの料理人? それとも妻?」
ドダンが導き出した答えは……もちろん分かっているだろう。
複雑なストーリーもない、意外な結末もない、伏線回収もない、さらには人物の背景や説明すらない。
まるで当たり前であるかのように、営みは誇張なしにただそこにあれば良い。
「映画にこれ以上の何がいるのか?」と本作は気付かせてくれる。
ただ無駄に豪華で贅沢な素材を使っただけの皇太子がもてなしたコースより、非常にシンプルなポトフにこそ真髄が宿る。