3.《ネタバレ》 大まかな目鼻立ちの大きな馬ヅラ、こもった大きなダミ声、逞しい体、そして何よりも従来の俳優にはない国籍不明の図太いエキゾチシズムの持ち主の俳優アンソニー・クインは、「革命児サパタ」「道」「その男ゾルバ」「サンタ・ビットリアの秘密」などでの強烈な演技で、私の印象に強く残っていて、彼が脇役の時は主演俳優を食ってしまうし、主役の時はその独特の個性でひと際光る演技を見せてくれました。
彼の晩年の出演映画「砂漠のライオン」は、シリア生まれのムスターファ・アッカド監督が、スペクタクルに民族の悲劇を描いた作品です。
イタリアの独裁者ムッソリーニは、北アフリカのリビアにローマ帝国を再建する野望に燃えていた。
そして、1929年、近代装備で固めた大軍を現地へ派遣する。アンソニー・クイン演じる、老いたベドウィンの指導者オマール・ムクターは、勇敢なる砂漠の戦士たちを率い、民族の誇りをかけた不屈の闘志で徹底抗戦を繰り広げるのだった-----。
この映画の撮影のために5万人ものエキストラが動員されたという戦闘シーンは、上映時間の実に8割近くを占めていて、そのひたすらな戦いをアンソニー・クインの個性あふれる名演が、引き締めていたと思います。
それまで、どちらかと言うと、あまりにも強烈すぎる個性で、クサイほどだった彼が、この映画で示した"枯淡の境地"には、目を瞠らされました。
砂漠の聖戦の先頭に立って闘う勇猛果敢な労将が、ひとたび銃を置いて子供たちにコーランを教える時の、慈父のごとき穏やかさ。
そして、従容として死につく時の、威風あたりをはらう静けさ。魅入るばかりのカリスマ性を、アンソニー・クインは見事に体現していたと思います。
近代兵器何するものぞ、砂漠の自由こそ民族の命と、ひるむことを知らない男たち。哀調を帯びた独特の叫びをあげて彼らを讃える、黒いベールの女たち。
イスラム世界のエキゾチシズムとパワーに、あらためて圧倒された映画でした。