16.《ネタバレ》 岩下俊作の小説「富島松五郎伝」を原作とする本作。
福岡県小倉の暴れ者「富島松五郎」こと「無法松」の顛末を描く人情もの。
街で大暴れするエネルギッシュな松五郎の身分を超えた情念を絡めた人生。
稲垣浩が魂を込めたこの映画だが、度重なる検閲で泣く泣くカットしてしまった部分も多く、今となっては不本意な出来となってしまっている。
松五郎が賭博に興じるシーン、良子に思いを打ち明ける場面などなど、重要な場面の多くが失われてしまった。
宮川一夫が収めたこの数々のシーンの一部が2007年に発見され、角川から出されたDVDで要約補完された。
ストーリー自体は後にリメイクで本懐を遂げたといえるが、本作で主演を務めた阪東妻三郎の素晴らしい演技が一部カットされた点は残念極まりない。
「雄呂血」の勇ましい二枚目が、この映画で見事に三枚目だが心の厚い熱血漢を演じる!
久世竜が代役を務めた雪のシーンですら、最初は自分の体で挑んで中耳炎を起こしていた。
サイレントからトーキーとなり、声の高さに一度は挫折したバンツマ。
それを声を出しまくった喉を潰し、ドスの効いた声に作り替える!役者魂ここに尽きる。
そして本作の一番の見所といえば、そんなバンツマのダイナミックな祇園太鼓。
監督の依頼を受けた太鼓打ち「田中伝次」が創作したオリジナルのものだったが、この映画がヒットした事で、松五郎の人物像とともにこの映画の太鼓打ちも全国、世界中に広まったという。
上記の太鼓を含め、宮川一夫の素晴らしいショットなどなど、見所も多い。
良子夫人を演じる園井恵子、結城重蔵を演じる月形龍之介の演技も素晴らしい。
特に園井恵子はこの「無法松」以外に映画には出ていない。彼女の最期を考えると、誠に残念でならない。
本作を見た方は是非とも三船敏郎主演のリメイクも見て欲しい。