3.《ネタバレ》 アカデミー賞にふさわしいかどうかは分からないが、完成度は高い作品。
本作品からは他の作品からは感じられない、得体の知れない“気持ち悪さ”を感じられるようになっている。
その象徴的なものをハビエル・バムデルが好演している。
感情すら感じられない存在、人間とは異なるような存在、トミー・リー・ジョーンズも語っていたが幽霊のような存在を演じている。
シガーとは会話自体も成立していない。
雑貨屋のオヤジとの一切噛み合うことのない会話や、人間の生命をコイントスで左右する手法が印象的だ。
映画自体も、シガーとの会話のように全体的に噛み合っていないようなところが多数見られるが、そのためか、得体の知れない“気持ち悪さ”をより感じられる効果が増しているように思える。
もちろん、コーエン兄弟は完全に狙って演出・編集しているだろう。
水を欲しがっていたメキシコ人に水をあげに行くことでトラブルに巻き込まれたり、シガーが銃撃戦などではなくて青信号を走っているときに致命的なダメージを受けるということも、善行や悪行といった既存の概念を超越している。
金、麻薬、殺人によって、人間の感情が麻痺しているように見られる。
人間が動くのは全部金ともいえる。
シャツをもらうのも金、病院に運んでもらうのも金、ホテルのオヤジから情報を提供してもらうのも金、殺人を依頼するのも金。
飲みかけのビールですら金をせびろうとする姿勢や、金をもらった瞬間に仲が良かった少年たちが喧嘩をし始めるということも本作が言わんとしていることをよく表しているように思える。
このような気持ち悪い世の中になったのは最近のようにも思えるが、1900年台初頭にも同じような惨劇があったという、トミー・リー・ジョーンズとネコ屋敷のオヤジとの会話も印象的。
本作が描こうとしていることは、近年において人間の本質自体が変わったということではないのかもしれない。
暴力と欲求が“人間の本質”であり、人間の本質自体は変わっていないということだろうか。