1.《ネタバレ》 本作は2004年のアカデミー賞監督賞、主演女優賞、脚本賞にノミネートされた映画である。
確かに冒頭の数分を観ただけでも分かるマイクリーの素晴らしい演出に、イメルダ・スタウントンも迫真の素晴らしい演技をしていた。脇の役者も皆よい演技をしていた。
劇場では感動して泣いていた人も見られ、決して悪い映画ではないと思うが、あえて点数についてはちょっと低めにしたい。
個人的にマイクリーに対して深い思い入れはないのだが、彼の監督作「秘密と嘘」「人生は、時々晴れ」は点数云々とは別にして、本当に素晴らしい映画だと思った。
「家族」「夫婦」などをテーマにし、そのテーマを深く見つめた結果のいわゆる「落としどころ」という感じの‘告白’が観るものの胸を打つというのが彼の映画の特徴ではないだろうか。
この映画にも確かに落としどころはあるようにも見えるが、あまり心には響かない。というよりも響く前に終わってしまったというのが正直な感想である。
映画のポイントがピンぼけになっているとしか思えなかった。
ヴェラの行為は確かに人助けではあるが、脱法行為である。その彼女の長年の秘密は家族である息子、娘、夫でさえも知ることはなかった。その秘密を知ったときに、家族がヴェラに対する気持ちがどのように変化していくのかについてポイントをもっと絞った方が良かったのではないか。
夫や息子が物分かりが良すぎるのが問題だ。怒りや不信などがあってこそ、はじめてヴェラを本当に許せるようになれるのではないか。本作でも、もちろん夫は内面では怒り、息子も「恥だ」と母を蔑んだが、心の動きを描くに際して、比重や扱いが軽すぎやしないだろうか。
なぜヴェラがそのような行為をするのかという彼女の気持ちに対して、家族は真摯に向き合っていないのも本作に入り込めない理由になっている。
また、堕胎行為に対する是非、例えば法廷にて彼女が救った女性などを証人にたてて情状酌量などを訴えるということ、をあえてぼかした創りになっているが、これについて描くべきか否かは正直悩むところであるが、家族の心の変化にポイントをきちんと置いていないのでやや疑問かなと感じる。
彼女の行為に対して、どのように心を整理すればよいのかを‘家族’と同様に考えるためにも、堕胎の是非も描いてもよかった気がする。
この映画のセリフにあったように「白か黒か」で映画を観る人には向いていないと思う。