1.寡黙でいて映像言語に重みと深みのある映画です。朝霧に包まれた湖上の庵の凛とした静謐さ、そこに住む老僧の若者を見る眼差し、子供の無邪気さ、若者の衝動、それらが美しい画にのせられていきます。季節が巡るごとに主人公が成長し、春がまた春となるように季節の輪廻が人生の輪廻として描かれています。冬になってからは台詞を奪いまったくの映像のみが、冬がもつ深々とした沈着と香りを漂わせています。四季の移ろいに人間の業を散りばめ、東洋美で語るこの映画を米国が好意的に評論したのもうなずけるところです。冬のシーンで顔を覆った布の下に隠された素顔をけっして見せることのない女性の描き方などは巧みです。このシーンはこの女性の具体をイメージさせないことで、人間誰しもが持つ業を顕在させています。隠すことで現しています。隠すことで現す・・・そういう意味では情交シーンを直接に描くのではなく間接的に表現していただきたかったですね~。この映画には人間だけでなく、犬や猫、魚、蛙、蛇、鶏、亀・・・たくさんの動物を登場させることで、より人間をきわやかに温かみと冷ややさと両方の視線をもって見つめているような感じがします。それは山頂に置かれた仏像に象徴されているのでしょう・・・。もうすぐ冬ですね。