1.舞台は第2次大戦中のドイツ占領下にあるパリ。愛や希望を失ってしまった不幸な時代にあってなお、それらに押し流されまいと人々は必死に生きようとしていた。そんな中でも、ユダヤ人を強制収容所送りにする為ナチスに密告するといった、人間の最も醜い姿がある一方で、彼等を匿ったり逃がしてやったりと、正義感を伴った人間本来の美しい姿がある。本作はこういったまさに庶民レベルでの両者の戦いの物語とも採れる。主人公を冴えない中年の肉屋の親父(=バティニョール)にしたことで、この悲劇的なテーマがユーモラスで人間味溢れる作品になり得たのだが、このあたり自作自演のJ・ジュニョは、その風体からしてまさにハマリ役。ひょんな事から匿っていた子供たちをスイスへ脱出させるという、コミカルさからスリリングさへと場面展開していくが、その筋運びには些かの誇張もないだけに、十分に説得力があり面白い。結局、人間の尊さや人間の良心への問いかけをすると共に、この愚かしい大人たちの現実世界から、未来を子供たちに託すという、祈りにも似た気持ちを感じさせる作品だと言える。陽光と緑に包まれたエンディングも実に爽やかである。