3.《ネタバレ》 これは素晴らしい映画です!数多い「生と死」をめぐる人間ドラマを描いた
映画の中でも、終始真摯な姿勢で描かれている傑出した作品ではないでしょうか。一昨年の『おくりびと』よりも私はこの作品にアカデミー外国語映画賞を贈りたい。
この映画では堤真一演じる天才医師・当麻鉄彦は脇役だと捕えたらいいのではないかと思いました。聖書の「よきサマリヤ人」のように、今環境が整わなくても、現実に目の前で苦しんでいる患者を放ってはおけない当麻の存在は、大病院の医師たちからはやっかみを買うが、一地方都市であるさざなみ市の病院を変え、その町の人たちの心さえも温かく変えていく。その中心に描かれているのがナース・中村浪子だ。このナースは多分若い頃離婚して、ひとり息子を働きながら育て上げ、その後50才半ば位(?)で心筋梗塞で死んでいく、という決して恵まれた人生ではないのだが、その当麻医師との出会いによって、果たして人間にとって真の幸福とは何なのか、働くという誇りはどこから生まれるのか、をある意味地味な生活の中で深めていく。その過程を生きるナースを演じる夏川結衣が本当に素晴らしい。抑えた演技ながら移り行く心の機微を見事に表現している。これは夏川結衣の代表作となるでしょう。
また、クライマックスの肝臓移植の手術の場面で、都はるみの演歌が術中BGMとして流れ、その緊迫した進行と共に、歌詞のない子供たちの合唱(歌詞がないというところがいい!)にかぶり、そして、実は子供たちの合唱を指導しているのはあの(詳しくはあえて言わない)余貴美子であるというところは、その映像と音楽の流れが実に映画的であり素晴らしかった。医療ドラマという点では模範的すぎるというか、リアリティにやや欠けるかもしれないが、観終わった後の何とも言えない幸福感は比類がない。