16.《ネタバレ》 リアリズムを基調とした、真の太い重厚な人間ドラマに仕上がっていて、まさに脱帽といった感じでしょうか。レリーフ処理でサスペンスを盛り上げるあたりも手抜きがないのですが、何と言っても、八重が東京に出てきたところで映し出される戦後闇市の風俗描写が秀逸です。特に、八重が客引きをしていて捕まりそうになり、店に逃げ帰ってくるシーケンスでのロングカットが印象的。高い位置から空を飛ぶような俯瞰の移動によって、切迫した緊張感が漂い、素晴らしいリアリティを生んでいます。また、三国連太郎演ずる犬飼が握り飯をガツガツと貪り食う生命力に満ちたカットも素晴らしい。物に飢えた人間の凄まじい有様。これらを泥臭いまでに表現した、ズシリと重い映像の数々がこの映画の性格そのものといえるでしょう。戦後日本の物質的な「飢え」。ただ、この映画の「飢餓」とは、こうした物質的な「飢え」ではなく、心の「飢え」のこと。嘘が嘘を呼び、嘘を嘘で塗り固めなければならない男の悲劇。嘘をつくのは相手を信じることができないからでしょう。解ってもらえないという、この心的な「飢え」によって、警察はもちろん、世間も、そして自分を信じてくれる人さえも信じることができなくなる。到底、愛情に気付くはずもなく、滅びの道を突き進むことになります。もしも、この心的な「飢え」が、戦争による物質的な「飢え」によってもたらされたものであると考えれば、この映画は完全に反戦映画としての様相を呈してきます。しかし、ラストで犬飼が真実の全てを闇に葬り去った瞬間、観ているものは思わずそこに立ち往生してしまい、何が真実なのか、事の真相が解らなくなってしまうのではないでしょうか。そして犬飼と同じように登場人物の全てを信じられなくなるような思いに一瞬かられるのではないでしょうか。解ってもらえない、人を信じることができないという、心的な「飢え」は、決して物質的な「飢え」によってのみもたらされるものではなく、そもそも人間の業のような気がします。戦争や物質的な「飢え」を知らない自分にもこうした心的な「飢え」が確かにあるのです。人が人を完全に信じることは難しい。それでも人は人を信じずには生きていけない。衝撃のラストは、この人間の業を一瞬にして語らしめる見事な幕引きだと感じました。傑作です。 【スロウボート】さん 9点(2004-04-06 00:34:09) (良:1票) |
15.《ネタバレ》 戦中戦後の苦い空気を吸ってきた役者達の放つ演技は圧巻。 本物だ。 三国の空腹の演技一つとっても「目の前にあるものを喰わなくては死ぬ。」という状況を知らぬものには出来ない演技だと思った。 左幸子もあの時代、女一人何かにすがらずには生きてゆけない人間の弱さ、切なさを愛しい人の爪を握り締めて見事に表現していた。 伴淳の親子の絆をさりげなく表すシーンも静かに胸に沁みた。 その他の脇役も隅々まで見事だった。 奇妙な人間関係の織り成すドラマを、深い人物描写と安定感のある語り口で観るものを引き込む説得力は強烈だ。 真実はその時代の象徴である「飢餓海峡」の荒波に、全て呑み込まれてしまうというラストも印象的だった。 重厚な演出と映像で、生き残るために必死な「時代」の人間のとある生き様をまざまざと焼き付けて見せた、まぎれもない傑作だと思う。 【Beretta】さん 9点(2004-03-11 01:35:54) |
《改行表示》14.映画としての基本がある。 フィルム処理もそう。(ビデオ) 【zero828】さん 9点(2004-02-25 20:51:43) |
《改行表示》13.《ネタバレ》 映画の完成度としては時代背景も含めて秀逸。本筋とは関係ないのだが戦後の引き揚げ時期(S21年頃)の函館や陸奥の描写がおっとりしている物として描かれているのが新鮮と言うか聊かの驚きだった。確かに東京やその他の軍需地域に比べれば戦中戦後を通して戦地は遠いものだったのでしょう・・・。また、復興後の東京の景色も、存外に穏やかな人々の暮し向きに見える。 しかし、それが故に『飢餓海峡』の飢餓たる所がどうしても今ひとつ伝わってこなかった。劇中に有る「あんな貧乏村に生まれたら絶望感に・・・云々」と言うのも昭和の初期から中期において人格形成を経た人たちにのみ伝わるメッセージなのだろうか?? 後先だが左幸子はエロティックだった・・・。高校生の頃に古文の教師が言っていた「エロティシズムとは、風で舞った着物の裾から見える脹脛の白さだ」という名言を思い出した。 |
12.中学生の頃に原作を読み、酌婦八重の情の深さに涙した。以来、水上勉の薄幸の娼婦を扱った小説をいくつか読んだが、「飢餓海峡」の杉戸八重が僕にとってのNo.1であることは変わらなかった。<ある意味で僕の女性観に決定的な影響を与えたといっても過言ではないかもしれない> 映画を観たのはちょっと先の話。イメージというのは恐いもので、左幸子もそれなりにがんばっていたが、ちょっと狂信的な感じが立ちすぎて、僕の八重のイメージとは違うし、原作をかなり端折った<東京での八重の暮らしぶりとか>途中の展開にもすんなり入っていけなかった。原作と映画の関係というのは難しい。映画だけ観れば、この作品が名作であることに全く異論はないが、原作に感動し、そのイメージが出来上がってしまうと、原作に忠実な映画というのは、作品の単なる短縮版のような感じがしてしまうのである。<長編小説の場合は特に> 作品として完成されたもの同士を同列に観てしまうとそうなってしまうのかな。正直言って、こればっかりは仕方がないことかもしれない。ただ、映画ということで敢えて言えば、画面から漂う雰囲気がとても切なく、伴淳の名演もあって、期待以上に見応えがあったことは間違いない。 【onomichi】さん 9点(2004-01-25 18:40:18) (良:1票) |
11.まさに戦後という激動の時代が生み出した、人間ドラマの傑作。三國連太郎演じる主人公・犬飼多吉を軸に、娼婦八重(左幸子)、初老の刑事(伴淳三郎)達の個々のドラマを絡めながら、壮大なる人間ドラマが骨太なタッチで描き込まれてゆく。人間に内在する善と悪、突然現われる運と不運、表裏一体である生と死、社会に目を向ければ当然の如く富と貧 …等々を浮かび上がらせており、まるで人間として生まれが故の数奇な運命劇を観るようである。地蔵和讃を取り入れた、冨田勲の荘厳な音楽も多大に貢献。巨匠内田吐夢の一級品の演出はもちろんのこと、人間への深い洞察力と凄まじい描写力には心底脱帽ものです。個人的には、前半のにぎり飯とセックスのシーンが印象的だった。主人公にしてみれば金銭に替えられない程の価値があり、生涯忘れられようはずのない人間の真の優しさに触れたはず。それなのに何故…。監督自身も戦中、戦後を通し、満州で長年に渡る抑留生活を体験するなど、波乱万丈の半生を時代と共に生き抜いた筋金入りの御仁。その間、人間の優しさ、エゴ、冷酷さを嫌というほどまの当たりにしてきたと言う。本作は、そんな人間というものを知り尽くした、巨匠の集大成と言えるのではないだろうか。文句なしの10点満点。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-01-13 00:02:58) (良:3票) |
10.巷の評価が非常に高いので期待してみましたが、期待が大きすぎたかなと思います。警察の犯人の断定ぶりがあまりにも強引。迷宮入りしかけた事件があれだけの推測で一挙に解決してしまっていいものかと思いました。樽見京一郎が懺悔の念で私財を寄付する、というのも薄っぺらい。また、左幸子が樽見京一郎に迫る場面はかなりエキセントリックな感じがしました。爪を肌身離さず持っているくらい恩義を感じているのはわかりますが、あれでは相手のこともかまわず、ただ自分の望みさえかなえられれば相手の生活はどうなってもよいとばかりに見えました。それも貧困のせいにしてしまうのは、少しばかり論理の飛躍というものでしょう。それにしても、伴淳三郎、三国連太郎、左幸子の演技は際立っていましたね。事件の解決にむけての努力、飢えと貧困からくる犯罪と良心の呵責、この映画で訴えようとしているそういうものの多くがシナリオからではなく、上記主役陣の演技に助けられて表現されているような気がしました。最後の遠ざかる海のシーンは印象的でした。 【神谷玄次郎】さん 7点(2004-01-07 17:46:59) |
9.見終わった後に余韻に浸ることが出来る秀作。みんなが様々な環境の中で、一生懸命生きていた時代というものを感じさせられる。 【アトミック】さん 8点(2004-01-05 15:58:11) |
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8.とてもテンポの良い作品。邦画でこんなに夢中になって見たのは久しぶりです。 長さもきにならず、特に伴淳の演技がいい! 三國連太郎も根っからの悪人ではないなんとも言えない物悲しさを感じました。 でもたった一度だけ肌を合わせただけの男を一途に思っていられるものだろうか? 左幸子の演技も絶妙。特に爪でもだえてる姿はたまりませんでした。 【あずき】さん 8点(2004-01-03 16:02:13) |
7.2002年に26才で、名画座で見ました。全体の流れは重々しくも飽きさせずよかったですが、最後が少しあっけなく感じました。もっと主人公の内面を描いて、最後に向けて盛り上げて欲しかったと思います。 【MASH】さん 7点(2004-01-03 08:30:46) |
6.物凄い緊張感。海外に堂々と出せる映画かなと思います。 【たーしゃ】さん 10点(2003-12-14 15:07:43) |
5.映画が、ある時代と、そこに生きる人々を描き創りあげたものとして最高の到達点のひとつ。 【るーす】さん 9点(2003-06-03 13:32:14) |
4.なんといっても左幸子。雇ってもらった女郎屋で大泣きするシーンにはこっちまで鼻の奥がツーンとなってくる。今のテレビ女優にはあんな芝居できないだろうなぁ・・・。左幸子が引っ込んだ後半部分、ちょっとダレてくるのでマイナス一点。それにあの刑事役は健さんじゃなくてもいいしね。伴淳は素晴らしい。 【じゅんのすけ】さん 9点(2003-06-01 18:54:12) |
3.日本映画の史上ベスト・ワンは黒澤明の「七人の侍」と相場は決まっているのだが、個人的好みでは本作のほうを推す。(このコーナーで今まで誰一人としてコメントが無かったのがむしろ不思議なほど。)白黒で3時間の長尺の作品であるにも拘わらず、まるで金縛りにでも遭ったかのように身じろぎもせず鑑賞したものだった。それほど冒頭から衝撃の幕切れまで、時代に翻弄される人間ドラマとその重厚な映像(かなり実験的な映像表現も試みられていた)には圧倒されっぱなしで、その完成度の高さは他に類を見ないほど。とりわけ船上でのラスト・シークエンスが強烈で、日本映画としては生涯忘れえぬ名場面となっている。さらに三国連太郎,左幸子そして伴淳三郎らの一世一代の名演が、この作品をより格調高いものにしている。 【ドラえもん】さん 10点(2003-02-06 17:41:55) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 実際に起こった青函連絡船「洞爺丸」転覆事故をモチーフにして描かれた水上勉の原作を戦前からの巨匠・内田吐夢が映画化した問題作。犯人・犬飼多吉役の三國連太郎も、弓坂刑事役の伴淳三郎も、娼婦役の左幸子も各々絶品の演技。特にわざわざ御礼を言いに行って殺される羽目になる、左幸子扮する杉戸八重の哀れさには胸が詰まる。最後に連絡船から津軽海峡へ身を投げる樽見こと犬飼とバックに流れる(冨田勲作曲の)荘厳な地蔵和讃が、戦後の重く哀しい現実を慰撫するかの如く響いて深く心に残る。高倉健も出てるが殆ど意味ナシ。 【へちょちょ】さん 9点(2003-01-29 06:11:58) |
1.青函連絡船での事故と放火殺人を結びつけた点は、すごく面白い。3時間は長いけれど、それだけの価値アリです。アラカンの渋さと、高倉健がカッコいい。三國連太郎の成功感がいまひとつ判りにくかったけど、最後の「アッ」というシーンまで目の離せない作品です。 【FOX】さん 7点(2003-01-19 16:35:37) |