25.《ネタバレ》 「カジノ」はうんざりするほど長く感じたけど、本作では約3時間でも長さは感じなかった。
各エピソードは細かく切断されて、一見繋がりがないようにみえて、全体として見事に調和されていると感じる。
このあたりはスコセッシの演出の素晴らしいところだ。
しかしスコセッシらしい抑揚のなさ。ストレートに観客に訴えるものがないのも彼の映画らしい。
観ている間は、ヒューズの人生からはほとんど感じるものがなかった。
しかし、観終わった後、この映画について思い起こせば、自然と色々と感じるものがふわふわと頭に浮かんでくる。
なかなか不思議な魅力のある映画だ。
既存の大きな体制・権力(ハリウッド・大航空会社・政治家)に自己の財源と情熱と執拗なまでの完璧さで立ち向かった男。
誰にも負けない情熱と妥協を許さない信念が、自由な発想を生み、不可能を可能としていった。
そういうヒューズのような先人達の想いが「現在の世界」を形作り、「未来への道」へと向かっているのではないか。
更には、情熱や信念の「強さ」と人間の(精神の)「弱さやモロさ」を対比的にあるいはミックスさせて描いている。
というような結論に帰りの電車の中で辿り着いた。
このようなことを映画を観ている間に感じられればもの凄い良い映画のはずなのだが、
そう感じられないところが、良くも悪くもスコセッシのような気がする。
人間というのは単純な生き物だから、ストレートに心を揺さぶるように描けば、
スコセッシのような才能ある演出家であればアカデミー賞は取れる気がするが。
しかしヒューズのようにスコセッシも彼らしい信念と情熱があるのだろうか。
いつのにかその強い信念でアカデミー賞という体制にディカプリオと共に打ち勝って欲しい。
その他にも、ヒューズのことをよくは知らないのだが、ヒューズというエピソードがありすぎる人であるため、
有名なエピソードに振りまわされてしまうことが良くある。
それらを全て映画の中に描こうとすれば、本筋からズレて、まとまりが悪くなることはある。
全体の調和は取れていると感じたが、いくつかちょっとズレているエピソードがあった気がする。