1.劇中何度も垣間見せる、ゲバラの圧倒的なピュアさ。彼は崇高な大志を抱いていたとか、壮大なビジョンを持っていたとか、生まれながらの特別な革命家では無かったのだ。旅を通じて多くの人々に出会い、多くの文化に振れ、単純に同じ人間が分断されている事に疑問を抱いたのだろう。単純に、支配と被支配、裕福と貧困、国境と国境に分けられている事を許せなかったのだろう。”渡れない境界など無い”事を、現実に証明した姿。「世の中はどうしようもなく複雑なもの」と半ば諦めてしまっている自分が恥ずかしくなると同時に、その汚れの無い意思こそが困難を実現させ、現在も多くの人を惹き付ける理由なのだと実感する。
以前、北野武監督がテレビのインタビューにこう応えていた。「1枚の絵画は、それだけで人を数十分間立ち止まらせる。理想の映画の形はそういうもの」。
この映画を見終えて浮かんだ言葉がこれである。無骨に紡がれていく映像、しかしその風景は繊細。所詮、人間が一生の間に行ける土地、出会える人の数は限られている。だから人は映画や小説を通して、他人の人生を体験する。その中で素晴らしい作品は、この映画も含め、自分の記憶と変わりなくいつまでも心に残り続ける。まさに最高のロードムーヴィー。