9.《ネタバレ》 列車、ポッド、オペレーションデスクと、可動範囲の狭い閉塞的空間の中で全身アクションを制限された役者たちの肉体は、さらにカメラフレームによっても寸断される。
ジェイク・ギレンホールのバストショットは役柄上の必然でもあり、二人の女優にとってのクロースアップは、映画表現の特権としてその相貌の肉感的な肌触りと魅力を伝えてくる。
モノアイとの切り返しの中で、ヴェラ・ファーミガのクロースアップは頬の輪郭や瞳の動きといった豊かなディティールによって彼女の感情の揺れと相克を露呈させて素晴らしい。
任務を遂行したギレンホールをねぎらい称える言葉と表情に滲む慈愛のエモーションが泣かせる。
テロリストに撃たれ、向かい合う形で路上に倒れて動けないミシェル・モナハンとギレンホールの視線を結びつけたローポジションの切り返しショットの切なさ。
その距離感があってこそ、彼の最後の決意は納得性をもち、最後の8分間の中で互いに向かい合って車窓の白い光を受ける二人の屈託無い笑顔のツーショットが活きてくる。
時間の静止した世界。乗客たちの笑顔の一瞬間が切り取られる。その渾然一体となった至高の映画的エモーションは何物にも意味づけられない。
抑圧、拘束、静止、不自由という「反アクション」の中に生の尊厳が浮かび上がってくる。
アバンタイトルの幾何学的ビル群の意匠。列車の外から中へ、というプロローグ。格子をすり抜けるカメラ。眼を見開いて横たわる女性等など。ヒッチコック的味わいも魅力だ。