31.《ネタバレ》 まばらに帰り始める同級生にばいばーいとさよならを投げかけつつ、部活の準備をする。
そろそろ帰宅部の連中は駅やアパートに向かって行ってしまった頃になる。そうすると僕らの第二格技場に向かう広い道で四人のクラスメイトが、ケチをつけてくる。いつもの出来事である。
「ねー、そんなにガチにやんなくても良いから帰ろうよ」
街で遊ぼうよという彼の気持ちは分かる。出来るだけ大勢が良いと言うのもだ。でもこの日は単調なトレーニングが中心だったからかつい、練習したいから遊びにいってくれ。と、僕は強く言ってしまう。このとき生じた彼らの中の黒い気持ちは、すぐに大きくなって僕に向かった。
「あのさ、ここはお前んちじゃねえし」俺らの勝手だし。一人が乱暴に近づいて僕の襟首を引き寄せると、彼らの心から本音のような物が溢れてきた。
不愉快だったのは彼らのせいでは無かったと思う。けど、僕は彼の右腕に僕の右腕をするすると這わせて肩口をつかんだまま、背後に立った。用意していた左手でつかんだ後ろ襟から彼に重しを掛けるとすぐに膝を突かせて自由を奪った。視界が揺れた瞬間の出来事に何が起こったのか彼は理解できないようだった。
今にも暴行事件になりそうな雰囲気に、残りの三人は顔色を変えてすまんすまん、コイツが悪い。悪かった。と、慌てて走り寄ってきた。
「いや、そう言うつもりでは無く、なんか怒っちゃってすまん」と、今にも壊れそうになっている人間関係を取りなそうと、僕も含めて全員必死だ。
彼らの中に溜まっていた、「何かに打ち込みたい」という応力が心を折って、今日は外に向かってしまったのだった。僕の一言が原因でもあった。
だけど、この一件で僕の心も何となく本当は打ち込んでいない事実を自分のなかに見つけてしまった。
厭々やっている。自分で選んで入ったのに。仲間が無心でサンドバッグを打ち続けているその傍で、僕も怒声を上げて人を蹴り上げている。嫌なのに。
そうやって月日が経っていくうちに、部活には出なくなってしまった。
結局、僕も講義が終わるとベンチに座って遊びに行くのを誘う側に立っている。「何かに打ち込みたい」って思いながら。
新しい仲間全員がそう思っていない事を意外に思い、でも、自分だけが勝手に狭い価値観を作り出している事にやっと気がついた。
と、脳内学園で事件が起こった。