6.ステッキを華麗に操るフレッド・アステアのスローモーションの素晴らしさ。
続いてそれを舞台袖で見つめるジュディ・ガーランドのショットが挿入されることで、
そのスローモーションは彼女の見た目のショットであった事に観客は気づかされる。
そこで単に妙技と躍動を披露する映像だったものは、
彼女の思い入れを伴った情景へと昇華する。
それは終盤のアステアとアン・ミラーのダンスも同様だ。
二人のダンスをテーブル席から一人見詰めるガーランドの姿が二度挿入されることによって、
その優美なダンスはそれ以上のものとして彼女の視線に倣った感情をもかきたてる。
映画の中でガーランドのダンスシーンは決して多くはないものの、
ダンスを見つめる視線という卓抜の仕掛けによって、
彼女は映画の感情を担うヒロイン足り得ている。
通行人を振り返らせようとする彼女のヒョットコ顔が楽しく、
ドア越しに拗ねる彼女の仕草がいじらしい。
暖炉わきのピアノを弾き、歌いながら愛情を確認するアステアとガーランド。
二人の視線のドラマと、彼らに緩やかに寄り添いながら背景の暖炉の炎を二人に
一体化させていくカメラワーク、彼女の纏う淡いピンクのドレスの色彩、
そして「It Only Happens When I Dance With You」 が集約され、
絶品のラブシーンだ。