2.ジェームズ・キャメロンは好きな監督だが・・・何故か「タイタニック」だけは惹かれなかった。
その理由がジャン・ヴィゴの「アタラント号」やロナルド・ニームの「ポセイドン・アドベンチャー」、そしてこのロイ・ウォード・ベイカーの「タイタニック」にある。
1958年に公開されたこの作品は、あくまでドキュメンタリー風のタッチでタイタニック号が沈みゆく姿を描いていく。
登場人物の描写は「タイタニック」よりも希薄だし、キャメロンの映像に比べるとこの作品は見劣りしてしまうかも知れない。
けれども、この作品は無駄なものが無く、船が沈むまでの人々の動静を克明に映像化した作品だ。
登場する船もセットも総て本物ではないのかという危機迫る映像、白黒画面の黒い映像がより沈みゆく船の恐怖を倍増させている。
死を前に人は何をすべきか?
最後まで船に残り最善を尽くそうとする人々の生きる姿。
善悪のあるドラマではなく、人間味のあるドキュメンタリーだからこそ極限状態の緊張感と凄惨な絶望感を肌で感じられると思う。
この作品の持つメッセージやドラマ性の方が、キャメロン版より圧倒的に上だ。
かつてキャメロンの「タイタニック」を酷評した淀川長治さんも、恐らくこの作品を見ていた事だろう。