1.《ネタバレ》 これは久々に大当たりの一本。
明るく楽しいラブコメとして、観賞中は常に笑顔のまま、夢見るような時間を過ごせました。
冒頭、レッドソックスのファンを「神の作った、最も哀れな生き物」なんて評してしまう時点で、もう面白い。
チケットのドラフト会議にて、男友達連中がダンスを踊るシーンも、非常に馬鹿々々しくて良かったですし
「俺の女房とチケットを交換しない?」
と言われて、一度はジョークと思って笑ってみせるも、相手が本気と気付いて真顔になる主人公の反応なんかも絶妙な「間」で、センスの良さを感じますね。
少年野球チームの教え子に対し、恋人の愚痴を零していたら、幼い教え子から的確なアドバイスを貰ってしまうシーンも、凄く好み。
あえて気になった箇所を挙げるなら、女性陣が「どんなに好人物であっても、自分が切った爪や髪を捨てられず取っておくような男は、気持ち悪くて無理」という反応を示す場面。
そして「ヒロインにファールボールが命中して気絶しているのに、それに気付かず仲間と盛り上がってる主人公」という場面が該当しそうですが、明らかにギャグとして描かれているので、笑って受け流せる範疇でしたね。
作品全体に明るい愛嬌が漂っているので、よくよく考えるとブラックなネタなんかも、あまり気にならないというか、スムーズに受け入れられる感じです。
姉妹編である「ぼくのプレミアライフ」(1997年)に比べると、ヒロインが「相手の趣味を知らないままで好きになった」という違いがあり、これには「上手いバランスだな」と感心。
承知の上で付き合った訳ではなく、恋人同士になってから、後出しで本性を知らされた訳だから、ヒロインが彼に「野球観戦を止めて欲しい」と訴えるようになっても、身勝手な印象を受けず、自然と感情移入出来るのですよね。
また、仕事一筋なキャリアウーマンという設定でもある為「趣味に生きる男」「仕事に生きる女」という対照的なカップルになっている辺りも面白かったです。
映画の中盤「夫婦って、お互いに歩み寄るものじゃない?」と言っていたヒロインが、クライマックスにて
「私は彼の為に仕事を犠牲にしなかったのに、彼は私の為に大切なチケットを売ろうとしてる」
と気が付き、その愛の深さを知る流れなんかも、非常に丁寧で分かり易く、ありがたい。
こういった心理の流れを、あえてボカしてみせる演出も御洒落で良いとは思うのですが、やはり万人に伝わりやすい演出の方が、自分は好きみたいですね。
二人が球場でキスを交わした瞬間には、観客の皆が拍手喝采で祝福してくれたのと同じように、心から(あぁ、結ばれて良かったなぁ……)と思えました。
レッドソックス優勝の感動を、そのまま映画のクライマックスに据えて、フィクションよりも劇的な「シリングの血染めのソックス」を、さらっと紹介してみせる辺りも心憎い。
間違いなく球史に残るような大きな奇跡の中では、一組の男女が結ばれた事なんて、とてもちっぽけな事かも知れません。
けれど、主人公達にとっては「愛する人が傍にいてくれる事」が何よりも大切なのであり、優勝の喜びの方は「二番目に素敵な事」になったのだと、最後のキスから伝わってきました。
エンドロール後の、家族ぐるみでレッドソックスのファンになった姿なんかも、実に微笑ましくて良かったですね。
大きな感動と、小さな幸福を感じられる、素敵な映画でありました。