1.「映像化不可能」という文句は、もはや伊坂幸太郎の原作に対する常套句となりつつある。
今作「重力ピエロ」も、類に漏れずその常套句が掲げられたが、そのニュアンスは他の作品とは少々異なるものだったと思う。
「アヒルと鴨のコインロッカー」のような文体によるストーリー構成の妙にその要因があるわけではなく、主人公の兄弟をはじめ描き出される「人間性」の妙こそが、映像化に対する最大の難関だったと思う。
結果としてまず言いたいことは、素晴らしい映画であったということだ。
伊坂幸太郎の独特の世界観に息づく絶妙な人間性を、決して物語を破綻させることなく、リアリティをもって映画として紡ぎ出すことに成功している。
それは、原作の真意をしっかりと汲んだ上での監督の確かな演出力、そして、絶妙なキャスティングによる俳優たちの奇跡的な演技力によるものだ。
「小説の映画化」に対して総じて言えることだが、文体によって緻密に描き出されるキャラクターを、生身の人間が「映画」という制限された領域の中で不足なく表現することは、途方もなく困難なことだ。
それが、この原作の登場人物たちのように多様性と二面性を表裏に持った複雑なキャラクターであれば、その途方もなさは更に果てしないものだ。
この物語は、ミステリアスな展開に彩られながら、悲劇を越え、遺伝子を越えて、一筋縄ではいかない「親子の絆」を堂々と描き出す。
それは、まさに重力を飛び越えて空中ブランコをこなすピエロのように、飄々とした中に確実に存在する「自信」と「誇り」に溢れている。
伊坂幸太郎の文体で描き尽くされたに思われたその「最強の家族」の姿を、この映画の俳優たちは、単なる「再現」を飛び越えて、見事に息づかせてみせた。