1.《ネタバレ》 主人公の殺し屋は、射程の短いラッパ銃を終始携帯している。
未来から送られてくる“ターゲット”を抹消するためだけの目的のその銃は、非常に不格好で何の希望も生み出さないように見える。
しかし、堂々巡りの憎しみの螺旋を断ち切ったのは、そのラッパ銃だった。
想像以上に独創的な映画だったと言っていい。突っ込みどころも多いが、それらも含めてこの映画ならではのオリジナリティだと思える。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリスが時空を超えて邂逅した同じ主人公を演じるわけだが、その二人が人間的に重なるわけではなく、むしろ全くの別人格として対峙する構図がとても独特だった。
ある人生を経てきた「自分」と、それを経る前の「自分」、時間とそれに伴う経験の違いが人間としての価値観の違いとして対立する様は、非常に興味深いエッセンスを映画に加味している。
タイムパラドックスを描いた映画としては、ストーリーの“綻び”は確かにある。
ナノマシンの進歩で秘密裏な殺人が出来ないから、過去に殺したい人間を送って抹殺するという設定にそもそも無理は生じている。
その手段であるタイムマシンの使用自体が犯罪という設定だし、大体が巨大な犯罪組織なのだから殺人をそこまでひた隠しにする必要などなかろうと思う。そんな手間のかかることをしているわりに、主人公の未来の妻はあっさりと殺されちゃうわけだし……。
ただそういう“綻び”を補って余りある独特の味わいを携えたストーリーでもあった。
あくまで利己的だった若き主人公が見せる確固たる人間としての成長はドラマ性に溢れていた。
そして、愛した妻の死を防ぐために過去に遡ってきた老いた主人公は、目的を遂行していくにつれ自分が何のために過去にやってきたのかが曖昧になってくる。
過去を変えることが、必然的に自分自身の歩んできた人生も変えるということになるからだ。
終盤において老主人公に残っていたのは妄信的な狂気のみだったのだろうということに気付くと、とても哀しくなった。
それらすべてを悟って、若き主人公は短い射程のラッパ銃で"一つの未来”を断ち切る。
その哀愁漂うラストは、とてもSF映画らしくもあり、同時にジャンルを超越した様々な感情を刺激する映画に相応しい帰着だった。
P.S.主人公の同僚への時空を超えた“痛くはないけど痛々し過ぎる”拷問があまりに惨かった……。