《改行表示》13.《ネタバレ》 少し珍しい、女性の変態性欲者を描いたエロティックな一作。とは言え、この物語の本質の部分は、とある理由から精神面に歪みを生じた一人の女性の悲劇的な顛末を描いた作品という点であり、その歪みが主に性的な方面に現れているというだけで、決して性的倒錯を直接的に描くことが主題の作品ではないと思う。 しかし、上品なフランスマダムそのものなイザベル・ユペールの佇まいと彩り豊かなクラシックが奏でる瀟洒な雰囲気の中に、突如として割り込んでくる倒錯的な性描写の衝撃度は、一瞬ふと「意味が分からない」レベルに極めて高く、本作に特大の「凄み」を与えることに十二分に成功している。また、このような性描写の生々しさを(倫理コード的に)可能な限り引き出しつつも、もう一方の側面である文芸映画としての知的な雰囲気をギリギリ損なわない非常に高度なバランスが保たれている点には、監督の繊細なセンスと流石と言うべき演出の腕前を大いに感じ取れる。 そして同時に、この繊細かつ鮮烈な演出を見事に成立させているイザベル・ユペールの鬼気迫る演技(と前述の素晴らしく品格の有るオーラ)は、私が知る中でも最高の仕事の一つと言ってよい。文芸映画らしい雰囲気を残しながらも比較的分り易い仕上りに加え、奇妙で複雑な一人の人間を描いた非常に劇的なドラマ映画としても十分に興味深く観ることが出来る。決して万人向けでは無いが、人を選んで是非お勧めしたい一品。 【Yuki2Invy】さん [DVD(字幕)] 9点(2019-11-15 23:21:35) |
12.3回観てはじめて、これは母と娘の物語だ…と思いました。根が深いです…。 【トトット】さん [DVD(字幕)] 9点(2014-11-19 08:50:07) |
11.《ネタバレ》 エリカは感情を麻痺させる術に長けている。他人を求め拒絶されることは恐怖だ。あらかじめその恐怖の芽を摘みとることで、彼女は孤独と引きかえに心の平穏と均衡を手に入れてきた。それは彼女なりの生きる智慧だ。ポルノショップで男たちの好奇の目に曝されること、ドライブインシアターでカーセックスに耽る恋人たちを窃視すること、彼女の秘密の二つの行為はどちらも視線を媒介する。見られる時、あるいは見る時、そこに生じるのは他者との距離だ。視線という距離を測ることで彼女は他者との隔たりを認識し、安心する。母親以外を隔絶して生きる彼女はまるで羊水に浮遊する胎児だ。けれどミヒャエル・ハネケはそんなエリカのぬるま湯のような無痛の孤独に、残酷な揺さぶりをかける。彼女の鉄壁を乗り越え迫るワルター。彼のその無邪気さは、常に茫とした第三者として世界に存在していたはずのエリカに、当事者としての甘美な実感を与えてしまう。あえなく氷解してしまった感情のままにたどたどしくワルターと向き合うエリカは、雛鳥のように無防備に愛を乞う。痛ましく無様なその姿と、やがて語られる赤裸々な被虐願望。それは隠し持つ己れの醜さすら曝け出した上で赦されたいという切実な愛の告白であり、罪深い彼女にとってのある種の告解だ。だが頑なな心を開いた彼女を残忍に待ちうけるのは、愛した者に拒まれ、切り捨てられる絶望だ。健やかな笑顔を見せ、他人事のように軽やかに去っていくワルター。それら出来事のすべてが彼女の妄想であれ現実であれ、重要なのはその痛みを前にしたエリカが、麻酔も鎧も、身を護るその一切を失っているということだ。母との蜜月を断ち切り、産道を抜け、血まみれで産み落とされた彼女はもうぬるま湯に逃げ帰ることはできない。胸に突き立てたナイフは、鋭い痛みの実感を彼女に与える。その表情によぎる誤魔化しきれぬ苦悶。エリカは血を流す生身の体で再び、貫くような孤独の痛みの中を、ひたすらに歩いて行く。この不愉快な映画はまさにエリカの持つ尖鋭なその刃の切っ先だ。ハネケの見せつける本物の痛みを前に、私はその不愉快を滑稽と嗤い飛ばす。けれどそれはエリカを庇護し続けた偽りの麻酔とどこが違うのか。ハンドバッグの中に包み隠されたそのナイフを、私もまた確実に持っている。ハネケは言うだろう。ナイフを突き立てろ、そしてその痛みから目を逸らすなと。 【BOWWOW】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-11-03 18:00:27) (良:2票) |
10.「妄想女のイタイお話」と言ってしまえばそれまでなのだけれど、この映画は、そんな一言じゃ済まされない、もの凄い映画です。なにが凄いのか、というと、まず、その性描写。これは、日本人が日本人で撮ったら安っぽいポルノになる可能性大の、めちゃめちゃリアルな描写です。なのに、見ていてもちっとも「感じない」。むしろ、眉間に皺が寄ってきて、かろうじて目を背けずに見ているのが精一杯。さらに凄いのがブノワ・マジメルの見ているものが引いてしまうほどの演技。この役を演じるのは、大変なエネルギーと想像力を要するはずなのに、若い彼はそれをこなしてしまった! そして最後の凄いは、イザベル・ユペールの演技力。無表情なのに、エリカの心の叫びの聞こえてくる迫真の演技は、鳥肌が立つほど。本当に仮面のように表情は変わらないのに、なぜこうもエリカの気持ちが伝わってくるのだろうか。とにかく、最初から最後まで「すごい、スゴイ、凄い」の連発。でも、一番の「凄い」は、ここまで人間の醜さ、哀しさ、滑稽さを、容赦なく残酷なまでに、果ては思わず笑いが起きるほどまでに描写し切ったハネケの力量なんでしょう。魂を揺さぶられる、と言っても大げさではない、大変な映画です。 【すねこすり】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-09-19 17:31:47) (良:2票) |
9.《ネタバレ》 ・・・・痛い。説明はできないが、最後のエリカの顔が全てを語っているのでは。人は様々な局面で自分の人生を選び取るけど、それとは別にあがなえない宿命もある。母親との泥にまみれるような確執がある女性、または母性の裏の顔・その底知れぬ闇・全てを飲み込む恐怖というのを肌身で感じて生きてきた女性にはかなり痛い作品だと思う。キツイ。キツすぎます。もう見たくない。 【タマクロ】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-01-16 18:49:29) (良:1票) |
8.共依存という言葉を思い出しました。こんなかたちの家庭内暴力に目を向けていくべきなのかとも思いました。女生徒への細工は青年との嫉妬もあるんでしょうけど、母親が熱心、一見地味というかつての自分のような存在への同類嫌悪みたいなものもあったのか。ありがちな設定だ、AVかと思った、そもそもなんで先生を好きになったのかワケワカラン、など評価が分かれているようですが、目を離す事が出来ませんでした。 |
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《改行表示》7.《ネタバレ》 地味で目立たない女主人公。化粧っけもなし。おしゃれもなし。恋人もなし。でもいいの!私にはピアノがあるから!突然現れた美少年。相手からの猛烈な好き好き攻撃。何この人!私のことからかってるの?やめて!男の人に期待して傷つくのはもう嫌なの・・・。どうして君は自分に素直になれないの?(かくかくしかじか)大丈夫。僕は君のことを傷つけたりしない。僕を信じて。・・・そんな少女漫画的な映画だと思っていた、ら・・・。(注意:上のレビューは少女漫画が好きな私の創作です)狼に育てられた少女がその後人間に保護されても生活に馴染めないのと同じようなものなのか。小さい頃からピアノ一色で、恋愛もせず友達もおらず(いなさそう)しかもあんな厳格なお母さんに育てられたらそりゃ歪むわ。モデルにする人間がいないんだもん。オチは、現実は少女漫画のようにはいかんって感じました。面白かったです。 【キュウリと蜂蜜】さん 9点(2004-10-09 11:56:24) (笑:1票) |
《改行表示》6.主人公は、ものすごーくイタくて、滑稽で、コミニュケーションのど下手くそな人。悪い意味でオタクっぽくて、おそらくは人間関係の基本というものがわかっていなくて、ろくな友達も恋人もおらず、ポルノに耽溺して変態的な妄想をすることで生きている。日本人にも多そうなタイプ。 美男子に言い寄られて大チャンスなのに、最初は戸惑いのあまり拒絶して、相手が離れていくと一気に怖くなってすがりつく。人との距離の取り方が、全然なってない。イタいイタい。ほんとに痛い。 でもすっごく可哀そうでもある。現実の悲劇というものは大抵の小説や映画よりもかっこ悪くて、醜悪で、どうしようもなくまぬけだったりするものだ。同情する以前に引いてしまうような、心の歪み。ある種の人間は本当に辛いことがあると、幸福な人間には想像もつかないような変てこな方向に行ってしまう。まともに愛されたことのないゆえに心が崩れ、他人に嫌われ、そしてかえって愛されたいという願いばかりが膨らんでいき、さらにバランスを崩していく。 これが『電車男』なら、オタクが更生(?)してめでたしめでたし、というハッピーエンドだったけど、ミヒャエル・ハネケはそんな甘い結末を用意しない。もっとも幸福なオタクの人生が『電車男』にあるとしたら、もっとも不幸なオタクの人生がこの映画だ。 そして残念なことに、不幸な物語の方が現実には多いだろう。だって正直な話、こういう人が周りにいたら、自分でも敬遠するんじゃないかと思う(恋愛対象としても友達としても)。彼女のような人間を愛してくれる誰かが、この世に存在するんだろうか? そしてまったく救われないラスト。変に聞こえるかもしれないが、自分はこの結末に監督の優しさを観たような気がした。だって、これが現実なんだもの。どこにでも孤独に苦しんでいる変人はいる。彼らが苦しんでいても普通の人々は見て見ぬふりをするか、バカにするだけで、手を差し伸べたりはしない。彼らはけっして救われない。監督はそんな彼らの苦しみを本当に理解している。 そして見て見ぬふりを決め込んでいるわれわれに、これでもかとばかりに見せ付ける――「お前ら、目を背けてんじゃねえぞ」、と。彼女のような人間と、彼女を侮蔑するか拒絶するかしかしない普通の人々。本当に醜いのはどちらなのか? 【no one】さん [映画館(字幕)] 9点(2004-02-24 02:30:13) (良:2票) |
《改行表示》5.最高だ!みんなが気に入る映画だとは思わないが、フランス映画的なエキセントリックな人物像が嫌いじゃない人は、絶対気に入ると思います。 これがカンヌ・グランプリをとった年のパルムドールは、ラ・スタンツァ・デル・フィーリョの『息子の部屋』。両方好きな人は少ないだろうなあ。 【みんな嫌い】さん [映画館(字幕)] 9点(2003-11-14 13:52:13) |
4.切ないでつ。途中何度もDVD止めちゃいました。性的嗜好が異常っていうより、これは傷ついた心の悲鳴みたいに感じたでつ。逃げ場になるはずの母親は娘を見ていない。内面を理解しようとしてない。だから無表情な仮面で内面的に幼い自分を守る。そう、あたしにはエリカが少女のように幼くみえたのでした。ホッケーのクラブハウスのシーンなんて特に。幼いから不器用。恋愛でも直球勝負。剛速球すぎまつ。てゆうかもっと駆け引きしろよ~。エリカがっついてるぞ~。でもそれはセク~スにがっついてるんじゃない。心のつながりが欲しかった。受け止めてほしかったんじゃないかな。そう思ったの。と、今回ものめりこんでいるわたくし。 【ごりちんです】さん 9点(2003-08-08 00:48:23) (良:1票) |
3.自分のことを、健全だと言い切れる人間はいるのだろうか?「普通」という言葉を安易に使う人間を自分は元々信用していないのだが、この映画を見たときにまさに「普通」という概念がいかに自分ひとりだけの世界なのか、ということを考えさせられた。そして、他者を受け入れ、共に人生を歩むことがいかに特別なことで困難なことであるのか、ということも性を通して突きつけられた。ハッピーエンドのハリウッド・ラブロマンスの対極に位置する映画。ラストでこんな陰鬱な気持ちになったのは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」以来だった。日本映画ででもこれだけ性と向かいあった作品があってもいい気がする。 |
2.ある意味かなりおもしろかった!!あれは実はコメディーなんじゃぁ・・と思わせるほど笑わせてくれた。一番笑えたシーンは、主人公がマジメルに「口が臭いよ。」というシーン。あれ、普通にあもろいって!しかし、ブノワマジメルかっこいいなぁ・・。エリカ、逃がした魚は大きい! 【まっきー】さん 9点(2003-05-26 19:35:44) |
1.ななさんは言った_これは”高尚なAV”だと。。全くの賛同の意を込めて、あえていいます。これは最も”下劣なAV”である、と。、、が、AVでブノワ・マジメルを拝めるとは、なんたる幸せ!しかも彼は緻密で完璧なマスターベーションを披露します。故に最高得点9を差し上げましょう。 |