4.《ネタバレ》 Uボートは深海の英雄、灰色の狼などと呼ばれその勇躍ぶりは世界に知られるが、その任務の実態は過酷なものだった。それを世に知らしめたのがこの作品。一度出撃したら何ヶ月も荒波の中の航海が続く。艦内は狭く窮屈で、もぐれば空気は汚れる一方、快適な生活とはほど遠い。華々しく空母や駆逐艦を沈めるわけではなく、狙うのは輸送船。犠牲の多くは非戦闘員だ。たとえ敵を見つけても遠くては追いつかない。潜水艦は足が遅いのだ。一度駆逐艦に見つかれば、立ち向かう手段はなく、ひたすら隠れ、逃げるのみ。命令とあらばどんな危険な任務でも拒絶できない。艦長は英雄は幻想であると知っているので、いくら「あなたは英雄です」と讃えられてもにこりともしない。
◆一定の戦果を挙げ、海底沈没の絶体絶命の危機を乗り越えて、生きてる喜びをかみ締めながらようやく帰還できたUボートの船員達。それをパレードの歓喜の声が待ち受ける。だが上陸の暇もあらばこそ、敵の猛烈な空襲に遭遇する。逃げ惑う船員達に容赦なく浴びせられる爆弾と弾丸。惨めに陸で死に様をさらす英雄達。爆弾を直撃され沈んでいくUボート、それを見届けてから息を引き取る艦長。戦争に英雄などなく、所詮何もかもが虚しい。それまでの重苦しい鬱積した展開を晴らすような圧巻のラストシーンは「戦場にかける橋」と同様、映画史上に残る痛烈な反戦メッセージだ。
◆苦言を呈せば、エンターテインメントとして弱いということ。唯一の戦果である輸送船撃沈シーンを何故見せなかったのか?ソナーの音だけにしてリアリティを持たせたいのはわかるが、ここは数少ないハイライト。Uボート活躍ぶりが際立ってこそ、最後のどんでん返しのショックが大きくなるというもの。【豆知識】①Uボートが出港したのも帰還したのも同じフランスの軍港ラ・ロシェル。イタリアにたどり着いたのではない。②地中海潜入作戦の目的は北アフリカで奮戦していたロンメル将軍のアフリカ軍団への支援。③レーダー開発は連合軍の方が進んでいて、夜間襲撃が可能だった。④潜水艦同士で灯火信号を使ったのは無線だと相手に気づかれるため。⑤実物大Uボートは撮影中に、スピルバーグ監督のレイダース失われたアーク用にレンタルされたが、返却されたとたん嵐に会って沈んでしまい、回収、修復に時間がかかった。⑥船員の髭は本物。撮影期間は日に当たらないように室内で過ごしたので青白い顔も本物。