1.《ネタバレ》 短編ながら中身の濃いフィルム・ノワールの傑作である。
スリ常習犯の男が地下鉄内で女の財布を盗むが、実は財布の中身は重要な国家機密が隠されていた。FBIは財布の中身の行方を追って必死の捜査に乗り出すが・・・。
その国家機密はもともと共産スパイが入手したものであり、それを押さえようとFBIが女を監視していたところにスリ事件が起きるという設定は、赤狩りが激しかったバリバリの冷戦時代という緊張感をよく反映している。その意味ではフィルム・ノワールとしてはイデオロギー色が強いといえよう。
犯罪のテクニックはもちろん、裏の掻き合いや同士打ちといった犯罪映画の醍醐味も詰め込まれていて80分などアッという間。カメラワークもよく、光と影の使い方も巧みであり、電車内のスリの場面は実にスリリング(スリだけに・・・苦笑)。ラブシーン、アクションシーンもともに楽しめる。
また、スリと被害者の女が恋愛関係に転じていったり、スリ専門情報屋の老女のがめつさとしたたかさが次第に愛らしくみえたり、老女はスリに母性的な感情を抱いたりと、主要人物3人の相関図がどう展開していくのかも見どころである。
主役のリチャード・ウィドマークは相変わらずの冷酷なニヤケ顔が気持ちいいが、今回は甘いムードも出していて二度美味しいのが嬉しい。そして人生の酸いも甘いも嘗め尽くしたような情報屋の因業婆を演じるセルマ・リッターが秀逸。彼女の最期を迎えるまでのモノローグがとても余韻を残す。
まさかのハッピーエンドに拍子抜け?いや、そこは見事に「裏を掻かれた」と拍手を送りたい。