1.訃報を目にし、つい市川崑のベストは何か、なんて不毛なことを考えてしまった。おそらく何本もの作品が気分に応じて入れ替わり立ち現われてくることだろう。今の気分だと「ぼんち」だな。崑の女性映画のエッセンスが詰まっている。今なら誰もが船場吉兆の女将を思い出すであろう毛利菊枝、おとなしい役が珍しい山田五十鈴、ただただ「お嬢さん」な中村玉緒、しっかりしている指輪コレクターの若尾文子、ひたすら尽くす草笛光子(彼女のシーンで芥川也寸志はのちのNHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマを使用)、モガの越路吹雪、色気なら京マチ子、女中の倉田マユミも大映時代の崑作品の貴重な配役だ。これら最強キャスティングに、男は雷蔵と船越英二で対抗。強い女に対する弱い男の抵抗のドラマは、当然のように男の敗北で終わり、女性への畏れと賛仰が後に残る。演出スタイルはもう完成しており、崑の一つの頂点だと思う。