1.長い尺があっという間にすぎるほど面白かった。「自殺サークル」「紀子の食卓」「愛のむきだし」は、個人的に園子温3部作と思っていますが、この作品から急に完成度が高くなりました。
家族主義的な閉塞を逃れるべく、郷里を離れ東京に辿り着いた紀子。そうして出会った
ハンドルネーム「上野駅54」に言われるがまま、レンタル家族を引き受けるも、どこか
違和感を拭えない。赤の他人がその時間の限り、かけがえのない家族でいられる、家族や
人格の「入れ替え可能」の象徴としてのレンタル家族。
一方、娘が失踪してなお、理想の家族を信じて疑わぬ紀子の父は、娘が消えたその理由を
探るも、まるで分からない。分かるはずもない、彼にとって家族は「入れ替え不能」な
存在なのだから。
娘・紀子はいずれとも決せぬまま、その狭間で戸惑い、翻弄される。
「入れ替え可能」、ゆえに生きていても、生きていなくても一緒。
生きるという選択も「あり」だし、死ぬという選択も「あり」。
だから、例えば集団自殺をするわけだし、例えばマイク真木「バラが咲いた」に包まれて、
殺されることをも甘受する。
誰が死のうが、何が起きようが、何も変わらない。平坦な「終わりなき日常」がただそこに
あるばかり。
クライマックス、血みどろの惨劇は夢か現か、過去の記憶の染み付いた借家で、家族揃って
鍋を突く団欒のとき。
そして夜明け前、妹・ユカはひとり東京の街へ消える。家族の「入れ替え不能性」が
夢物語でしかないことを思い知らされる瞬間だ。