2.北の薄暗い寒空の下、冷たく暗い海のように、深い感情が沈み込む。
松本清張原作の「ゼロの焦点」は、思わずそんな文体を言い回したくなるような、文学の味わいが色濃く反映された奥深いサスペンス映画だった。
結婚後わずか一週間での夫の失踪。新妻にとってまったく訳が分からない状態から深まる謎と、徐々に明らかになる夫の実像。
巧いと思うのは、主人公である“妻”とミステリーの核心である“夫”の絶妙な関係性だ。
失踪した夫のことを心底心配はする妻だが、それと同時に実のところ夫のことを何も知らないという実情。だからこそ混沌としていく謎に対する感情。
その微妙な心理の妙は、まさに文体で創り込まれたものだということを感じさせる。
そして、その妻の心理の上に、さらに二人の女の感情が積もる雪のように折り重なっていく。
ミステリーに対する解放感と同時に見えてくる女たちの儚く切ない運命模様は、映し出される冷たい空気感以上に、凍てつくような情感に溢れている。
数奇な運命に翻弄された3人の女たち。それぞれに不幸があり、それぞれに救いもあった。それは、人生というものは決して比べられるものではないということを、物語っているようにも思う。
何にしても、“崖先ので真相解明”。もはやミステリーの常套手段でもあるクライマックス、その「原点」を見た気がする。