1.《ネタバレ》 ダイニングとリビングの二間、玄関の内と外、小泉今日子の仕事部屋のデスクと奥のドア、透明なテラスの上と下、子供たちが乗るメリーゴーラウンドと手前のベンチ等々。
二つの空間を1フレーム内に取り入れた縦の構図によって奥行きのある立体的な空間を達成している。
その奥と手前それぞれに的確に配置された小泉今日子・永瀬正敏・小西舞優・矢部光祐の4人はロングショットと長回しによって群像としての家族を全身で生きている。
手を繋ぐ、じゃれ合う、抓る、叩く、抱く、と映画的な接触のコミュニケーションも愛情表現として大変豊かだ。
公園でのままごと、ひな祭りの写真撮影など、4人が固定フレームの中で絡む芝居はまさに演技を超えた仲睦まじい家族そのもののドキュメンタリ―の感すらある。
単純な切り返しの会話がなく、複数の人物を極力1つのショットに収め、パンフォーカスによって深い被写界の中で彼らを絡ませることで、個々人の身体はフレームに寸断されることなく、その関係性がより強固に炙り出されるという具合だ。
父のいる海へ行こうと、小さな水色のビニールプールで光る川を下る兄妹の姿の美しさといったらない。
車中での離婚届けへの捺印を挟んで、それまでツーショットで映っていた小泉と永瀬が個々の単独ショットに切り替わるなどといった演出も細やかである。
あるいは、店名の一部である「子」の字の映る飲み屋街のガラス戸。そこに映った永瀬の顔にフラッシュバックの返り血が浴びせられるインパクト。
フェリーニのような人工の川面。
親子が釣りに興じるシーンの少々賑やかな『父ありき』。
藍色の海の豊かな色彩とアニメーション。
工夫を凝らした奔放な発想が随所に挿入され、まったく飽きさせない。
そして、エンディングの「家族の肖像」がまたダメ押し的に素晴らしい。
問われるべきは、原作に忠実か、モデルと相似しているかといった事ではなく、
小林聖太郎独自の映画となっているかどうかだ。