3.《ネタバレ》 柔らかい光に包まれた大自然の中で、農場で働く人々もまた、しばしば“単なる人影”として描かれ、大自然と一体化しているように見えますが、その人影の中から主人公たちの表情が浮き上がってきて、切ない物語が綴られていきます。寄る辺なき労働者のビルと、妹であり映画の語り手であるリンダ、そして兄の恋人アビーの3人の一行。ある農場の期間労働者としてこき使われているうち、アビーは農場主に見染められます。農場主は余命いくばくもないため、ビルはアビーに農場主との結婚を勧め・・・と言う訳で、ようやくビルは平穏な生活を手に入れるのですが、その裏には、恋人を他の男と結婚させてしまうという大きな代償と、農場主からの疑惑の視線による緊張感を伴った、表面的な平穏さに過ぎません。この物語が静かに描かれていく中に、自然の風物の映像が何度となく挿入されるのですが、その挿入映像の中のひとつかと思われた“イナゴ”が、大群となって物語の表舞台に躍り出て、その欺瞞に裏打ちされた平穏さを突如打ち破ってしまう瞬間の怖さ。大炎上する麦畑の光景、その映像もコワイ、流れる音楽もコワイ。後はひたすら追いつめられ転落していくしかないのですが、その果敢ない行く末の虚しさよりも、映画ラストで、生き残った者たちがそれぞれまた新しい生活へと向かっていくこと、死者が忘れられていくことの方に、幾層倍の虚しさを感じます。怖い映画でした。映像の美しさ故に、残酷な映画でした。うーん、でも何で使われている曲が『水族館』なんだろう(笑)。