2.《ネタバレ》 まず、ケネス・ブラナーに拍手。ディズニー映画にケネス・ブラナー?若いころは「自分」を前面に出した作品も多く、やや自己顕示旺盛な印象だったか、この作品は自身の出演はおろか、職人監督的な手腕が随所に出て素晴しい。ディズニーの誰でも知っている作品をここまで見事に映像化したのは正直驚いた。フェアリー・ゴッドマザーにかつての同棲相手だったヘレナ・ボナム=カーターを選ぶあたりは実に興味深い。彼女自身の女優「力」を信じ、彼女もそれに見合った演技で、わずかな出演にもかかわらず、この物語の最大のキーワードである「魔法」に説得力を持たせている。常に曲者を演じ続けてきたインパクトはここでも十二分に発揮されている。リリー・ジェームスも当初は継母の娘たちの一人としてオーディションを受けていたのが面白い。グレース・ケリーのような骨格と気品が実に主人公にぴったりだ。王子役も超二枚目というよりは、誠実さあふれる王様の一人息子の雰囲気が出ていて新鮮だ。ケイト・ブランシェットは、おそらくベテラン女優としては一番演じたい継母役を楽しく演じている。彼女の目つきや顔の角度、照明など、継母描写にここまで気を遣うのはケネス・ブラナーがこの大女優に敬意をはらっている証拠だ。作品のなかでも力を入れて撮っているのがわかる。新人と大女優、かつて恋愛関係もあった性格俳優と、実にバランスのいい印象だ。この作品のなかでも一番のシーンはドレスへの魔法。コレには思わず感嘆の声が出てしまった。
他のレビューにもあったが、なぜガラスの靴だけ魔法が解けなかったのか?シンデレラ最大の謎(?)かもしれないが、この映画ではその理由が少しわかった。
シンデレラの母が常に語っていたフェアリー・ゴッドマザーの存在。つまりあの魔法使いは、昔から人々の暮らし、特に善良な人々を見守ってきた存在。今回はたまたま親切にされて登場したわけではなく、彼女に幸せをもたらすために現れたのだ。つまり舞踏会に行くためだけの魔法はなく、王子の誠実さもすべてお見通しだからこそ二人を結びつけ幸せにするために魔法を使ったのだ。
シンデレラという物語はあくまでエラ本人目線で描かれてきたが、もしかすると王子の前にもフェアリー・ゴッドマザーが別な形で登場していたのかもしれない。たとえば、主人公二人は結婚のあと、あの舞踏会のことを語り合うかもしれない。そのときシンデレラは「ガラスの靴だけなぜ魔法が解けなかったのかしら?」と気づくだろう。それを脇で聞いている王子は、こっそり微笑むかもしれない。そして窓の外を観るとあのフェアリーゴッドマザーが口に人差し指を当てて「内緒にね」と王子にだけ微笑む…
ヘレナ・ボナム=カーターが演じたからこそそんなことまで想像してしまう。
なかなかの名作だ。