1.ヨーロッパでコスプレというとどうしても絢爛豪華な貴族趣味ばかり思い浮かべてしまいがちだが、この作品は不潔で淫靡な世紀末のロンドンを非常に泥臭く描いた点で新鮮。実際にこの時代のロンドンを見て来たわけではないので何とも言えないが、異様に頬紅を強調したメイクアップや、マメに入浴しているとは考えづらい人々の全体にベトついた感じ、衣類なんかもやけに薄汚れ方がリアルだったり、とかく歴史映画の中にあまり出て来ない、トップクラスの上層階級でもなければ最下層の貧民でもない、ロンドの中流社会をクローズアップしたところが珍しくもあり、楽しくもあった。伝説の殺人鬼スウィーニー・トッドの事件そのものの猟奇性は単に覗き見根性を満足させてくれるにすぎないが、私は下品で野次馬趣味なので素直におもしろかったと言っておきたい。関係ないけどこの映画の公開直前、あらゆるミニシアターで上映されていた「ライフ・イズ・ビューティフル」をオスカー受賞のヒューマンドラマに群がった有閑マダムたちにぎっしり囲まれて観るハメになったのだが、上映前にこの作品の予告編が流れてしまい、集まった200人のおばさんたちが動揺のあまり騒然となっていたのが正直ちょっとおもしろかった。ハンカチ握りしめたおばさんたちに、人肉パイのCMは酷である。いくらなんでも、予告編を上映するのにもTPOってもんがあるだろう。