65.《ネタバレ》 舞台はブラジルのスラム街「神の街」。
これまで観たギャング映画とは、印象が違う。
ギャングやヤクザ映画を観た後は、役に自己投影して、肩で風を切って歩きたくなる。
それは、どこかカッコよくて、憧れる部分もあるからだ。
けれど、この映画にはそれがない。
声をかけた女に相手にされず、ヤツ当たりでその恋人に絡んで屈辱を与える。
気に入らない奴をぶちのめし、欲しいものは力づくで奪う獣たち。
まるで、北斗の拳の無法者たちのよう。
カッコいいアンチヒーローではなく、質の悪いチンピラなのだ。
暴力は子供にも蔓延しているから始末が悪い。
自分の欲望を満たすために、笑って引き金を引く。
そこに命の重さは微塵もない。
絶対にこんな世界には入りたくないと思うほど、あまりにすさんでいる。
悪さをする少年グループへの懲らしめで、捕まえた子供をゲームのようにいたぶりながら、配下の子供に殺させるリトル・ゼ。
リトル・ゼは、人を片っ端から殺してボスの座に上りつめた。
一方、リトル・ゼへの復讐のため、罪のない人は殺さないという条件で、対立グループに入るマネ。
そんなマネも、強盗中に歯向かった警備員を射殺してしまう。
結局、リトル・ゼは少年グループに蜂の巣にされ、マネも警備員の息子に射殺される。
報復が繰り返され、勝者のいない争いがむなしい。
ただ、重苦しい映画にはなっていない。
苛酷な現実をリアルに描き出しているが、不思議なほど明るく軽いタッチで仕上がっている。
カメラマンになった主人公からは、不幸な過去の影は見えてこない。
ひたすら、「生きる」ことに集中している。
命が虫けらのように扱われる中で、生きることが光を放つ。
自殺者が毎年3万人を超える平和ボケした日本とは、何もかもが対照的に見える。
巧みな構成と、センスの良い映像には感心させられた。
登場人物を紹介する際、時間軸を前後させて、効果的なエピソードを挿入している。
いくつもの話を巧みにリンクさせ、散漫な印象を与えず、一つの物語として収束させる手腕は見事。