1.《ネタバレ》 当時のドライヤーはムルナウの傑作「吸血鬼ノスフェラトゥ」を絶対に意識していたに違いない。彼とは異なる手法でヴァンパイア映画の傑作を撮るには一体どうすれば??と。そういう意味でオーソドックスなホラーの展開を悉く外し、ジュリアン・ウェスト扮する主人公アラン・グレイを徹底的に木偶の坊の狂言廻しにしている点は如何にもシニカルなドライヤーらしい。中でもズバ抜けて凄いのは”影”の演出。と言ってもムルナウのような撮影技法のことではない。影(SHADOW)そのものが本体たる人間とは独立して闊歩するのである。コレを今を去ること73年前の作品で見せられる驚き!トリックが見え見えでチャチい?いやいや、発想のオリジナリティにはもっと畏敬の念を込めて接するのが映画ファンとして最低限のエチケットというものだろう。老婆の吸血鬼といい、粉挽き小屋でのラストといい、意表を突いた展開に大いに瞠目させられた一篇。モロにビジュアルで見せ過ぎず観客のイマジネーションに訴える奥の深い作りは流石の一語だ。「裁かるゝジャンヌ」同様、ルドルフ・マテのカメラワークも絶品。