1.イラン・イラク国境を舞台にした、クルド人の爺さんと2人の息子の珍道中であります。あまり馴染みのない風景や風俗描写に目を奪われますが、一方、どっからこんな俳優見つけてきたのやら、というイイ味出しまくりの登場人物たち、なんだかカウリスマキ調とでも言いたくなる雰囲気も。かつて爺さんの元を去った女性から手紙が届き、その女性を探しに行く物語ですが、途中のエピソードが何ともユーモラスで、ウマい。喧嘩のシーンなんか、いかにも「ポカスカ」っちゅう感じでマンガっぽい。子供たちが紙飛行機飛ばすシーン、一人早まって飛ばしてしまう奴がいるのには笑ってしまいました(リアルすぎるが、演出なのか?ホントに早まったのか?)。また、ロードムービーでは「行きずり」で終わってしまうような脇役たちが、この映画では思わぬところで再登場するなど、エピソード間に繋がりがあるのにニヤリとさせられます。でも映画全般があまりにもナチュラルな描写なので、作為的な感じはしません、何か映画全体が一種の変奏曲であるかのような印象も受けます。そして、映画を通して鳴り響く通奏低音が、戦闘機の爆音なのです。ユーモラスな描写の合間に、執拗かつ不気味に響き、映画の背景を暗示し続けます。イラクに入ってくると、戦争の臭いが強くなり、舞台は雪に閉ざされて寒々としてきます、それと共に、フセイン政権下での悲劇がより強く押し出されてきます。しかしそれを決して「絶望」としては描いておりません。ラスト、雪の中を、子供を背負って歩くミルザ爺さんの姿は確かに心細い、しかし有刺鉄線を踏み越えて行く姿には、奥底から湧き上がる力強さも垣間見えるように思えます。 それにしても、お茶が本当においしそうでありました!