1.《ネタバレ》 マドンナは田中裕子。
但し、お相手は沢田研二で、寅さんは彼のご指南役。田中裕子への仄かな恋心を持ちつつ、2人の仲を見守る役回りである。寅さんが沢田研二演じる口下手な二枚目の三郎青年に恋愛指南をするのだけど、例えば「言葉ではなく、目で伝えるのだ」と教えたりするものだから、田中裕子演じる蛍子ちゃんから「三郎さんは何を考えているのか分からない」と言われてしまう。蛍子ちゃんに結婚を申し込む三郎青年。自分の気持ちをうまく表現できず、最後には蛍子ちゃんから「口で言って」と迫られる。実は、恋愛下手なのは知ったかぶりの恋愛指南役である寅さん自身なのだ。そりゃそうだ。本当に好きな人の前で何も言えなくなる。前作『あじさいの恋』の寅さんが思い浮かぶ。
「あいつがしゃべれないってのは、あんたに惚れているからなんだよ。今度あの子に会ったらこんな話をしよう、あんな話もしよう。そう思ってね、家を出るんだ。いざ、その子の前に座ると全部忘れちゃうんだね。で、馬鹿みたいに黙りこくってんだよ。そんな手前の姿が情けなくって、こう涙がこぼれそうになるんだよ。な、女に惚れてる男の気持ちってそういうもんなんだぞ」 寅さんが蛍子ちゃんに言うセリフは正しく自分のこと。痛いほど分かるなぁ。それにしても、田中裕子の声って甘く儚げで男心をくすぐるよ。