1.《ネタバレ》 多少、説明不足かと思われる箇所もあるので、ワンショットも見落とせない映画ですな。コーエン兄弟お得意の観客の心理をもてあそぶ、ストーリーテラーとしての上手さは、処女作から一級品でした。非常に面白かった。サブタイにスリラーと銘打つ本作ですが、サスペンスやホラーの要素もあり、それらが渾然一体となって醸し出している雰囲気が堪りません。ただ、サブタイにスリラーという語を入れたことで、「二人は果たして生き存えることができるか」というベクトルが与えられているので、見やすくはなってます。内容については、脚本の上手さも勿論ですが、立体的空間をカメラで二次元に切り取って見せる、カメラの枠の使い方が上手い。TV画面を越えて、どこに狂気が潜んでいるか分からない怖さがある。カメラの枠の外もそうだが、その他、"見えないもの"というのが非常にこの作品の鍵になっていると思う。核となる誤解は勿論、人間の内心や思い込み、壁やドア越しに存在する見えない相手、無言電話の相手、魚の下のライター、ベッドで横になった瞬間に外に怪しい車が見える箇所など…etc 上げ出したらきりないほどです。見えないものは勝手に想像してしまう。だからこそ、そういうものが坦々と恐怖心を煽るんですなあ。ところで、フォトショがないこの時代に、どうやって探偵のおっさんは写真の加工処理をしたのだろう。加工技術、高すぎ(笑)それに、初見時におっさんが現場に戻る動機付けが弱すぎないかと、ちょっと納得できかねていたのですが、なるほど、名前の?刻印が施されていたのですね。しかし、流麗な筆記体。"読めねえよ!"と見直したときにツッコンでおきました。特に印象に残ったのは、最後探偵のおっさんが闇雲に拳銃で打ち抜いた穴から、直線的な光が漏れている箇所。多重人格というワードで観客心理を揺さぶってくる箇所。それに、所々にひっそりと描写されるシーリングファンのプロペラが、まるでリボルバーのシリンダーのように回って見える箇所も秀逸。まさにロシアンルーレット。コーエン兄弟の作品はキャラ立ちや脚本の良さもありますが、こういった所も隠れた良さだと思う。ちょっと咀嚼できてないところがあるので、今のところ10点に近い9点献上です。