2.《ネタバレ》 クローズ・アップがくどいのと後年の作品に比べるとやや荒削りだが、俺はその荒さも含めて好きな作品だ。
水窪澄子の可愛らしさと美しさを見ているだけでも飽きない。
眼鏡を取ったら結構美人の姉さんも。
走る学生たちが画面を横切るファースト・シーン、女性達のセリフから彼らが不良だと読み取れる。
しばらくほとんどセリフが無い。
空の財布を見て金をこっそりやる母の優しさ。
息子の義雄は母の仕事を馬鹿にされ虐められたからなのか心が荒れ不良に身を堕としている。
「お母さんの子だもの お酒くらい飲めるよ」のセリフはグサりとくる。
それでも母の道具にナイフを投げる事を躊躇う葛藤も見せる。穴の空いた靴下を墨で塗るシーンは笑ったが切実である。
言いたい事は解るが、やや説明不足なのが残念。
母親が死に急ぐ描写も説明が足りない。息子と馴染みの客、両方の心が離れようとする事への焦りからだろうか。
ま、そんな男も出会ってそうそう「温泉行こうぜ」とやらしい手つきで誰彼かまわず女に手を出そうとするエロジジイですけどね。
一瞬でも出てくる橋。橋は成瀬映画を象徴するシンボルでもある。
照菊が義雄に「自分が何のために生きているか」を“告白”しに行くシーン。二人を乗せ鉄橋を駆ける電車は、水窪澄子が語ろうとする真実に“接近”していく。そして母親が働く料亭の橋は、息子と母親、そして水窪澄子を繋ぐ架け橋でもあるし、やがてくる“別れ”すら暗示している。
そんな義雄の心を改めさせようと語りかける水窪澄子の面影は、後の高峰秀子を思わせる。
高峰秀子は、彼女の後継者でもあるのだろうか。
水窪澄子演じる照菊が幼い弟や妹のために働く。
電車の中で水窪澄子が出ていた明治のチョコレートが気になる。
畳み掛けるカットの繋ぎで海を背景に字幕をのせるシーンにはドキッとする。
「義雄さん一紹(一緒)に行ってくれる?」
一瞬見せる本気の表情、美しい手。
義雄は母や照菊のために不良仲間から抜ける事を決める。死んでもやり返さない覚悟で。だが母の悪口だけは許せなかった。
庇う照菊、一瞬見る走馬灯・・・それでも生きる勇気を選ぶ照菊。
ただ、「アイツさえいなければ」なんて「本当は死にたいけどみんながいるから仕方なく生きてやるのよ」的なセリフはちょっと怖い。