1.《ネタバレ》 原作未読。
これですねー、札幌の蠍座のプログラムで『父親たちの星条旗』の直前に観たんですよー。
もうね、『星条旗』の方では米兵視点で完全に「行け行け! 日本海兵殺ってまえ~!」状態ですわ。完全に洗脳されていた(笑…えるか?)。
それくらい、明治以降の日本式資本主義が明快に《画》になっている作品。銃を構えた海兵に労働者を包囲させ、「扇動者は誰だ! 出て来い卑怯者!」ってそれ、アンタが卑怯やん。
評価点は、《船》という閉じた生態系がまずしっかり描かれている事。
その存在目的とエコシステムが、物語の進行に連れて次第に明らかになる事。
やがて準前線的なヤバイ場所まで連れてかれる事を、労働者だけじゃなく観客までも知らずにいる事。
さらには(北海道人なら承知ですが)海で死んだ奴らがカニの餌になり、一段高いレベルのエコシステムまでが象徴的に暗示されている事。
音楽について。
冒頭、スタッフロールの背後で乗船する人々。ここで流れる音楽の厚さに圧倒されます。
誰かと思ったら音楽監修・伊福部明!
これ怪獣映画じゃん!(笑)
おそらく、船内世界を実社会へ投射させるという物語のメカニズムを生んだ草分け、『白鯨』を意識して、資本主義を巨大な怪獣に見立てるというプリプロダクション時の思考があったんじゃないかと思います。そう。これは、怪獣映画として壮絶に成功しています。
巨獣と群集の明快で絶対的(時として逆転もしますが)な関係が赤裸々に語られる本作は、凡百の怪獣映画より遥かに凄い。
スタジオでのお芝居もありますが、汚れきったきたねー衣装を揃え、字幕が欲しくなるほどちゃんとした函館弁を喋らせ、本物の蟹工船にキャスト全員を乗せて、本当に蟹を引き上げさせて、本当に大シケの中で(って下手すりゃカメラマン死ぬよアレ)、本当にスタントを荒波に放り込んで…このリアリズム。ヘルツォークがお坊ちゃまに見えてくるほど、体を張って撮った野蛮さ、無茶苦茶さで、脳天を撃ち抜くような迫力でした。